スキー場経営の収益構造――リフト券以外の売上をどう作るか

レンタル、スクール、飲食、物販を備えたスキー場のベース施設 スキー場経営

朝、リフトが動き始める前。レストランでは仕込みが進み、レンタルではブーツが並び、スクールでは予約表を見ながら班分けが始まります。私たちが手にする一枚のリフト券の周りには、実はたくさんの仕事と売上の可能性が広がっています。今回は、スキー場の一日を歩くような気持ちで、リフト券以外の収益を一緒に探してみましょう。

あなたならどう考えますか?
もし滞在時間があと1時間伸びたら、どんな体験を追加したくなりますか?

SNOW MAKING編集部では、どれか一つを正解として押しつけるのではなく、各地の現場で積み重ねられている工夫を持ち寄りながら、このテーマを一緒に考えてみたいと思います。

スキー場の売上を考えるとき、最初に浮かぶのはリフト券です。しかし、天候や営業日数に左右されやすい事業ほど、来場者一人あたりの体験を広げ、複数の収益源を持つことが経営の安定につながります。ここで注目したいのは、売店を増やすことではありません。自社の立地、客層、滞在時間に合う「選ばれる理由」を、無理のない順序で事業化することです。

なぜリフト券だけでは不安定なのか

スキー場は、索道、圧雪、降雪、駐車場、安全管理など、営業前から大きな固定費を負います。一方、売上は降雪量、週末の天候、道路状況、学校休暇などに集中しがちです。リフト券単価を上げるだけでは、価格への納得感や地域内での消費拡大に限界があります。そこで一緒に見てみたい指標は来場者数だけでなく、客単価、滞在時間、再来場率、部門別粗利です。

ゲレンデを見ながら収益データを確認するスキー場の運営担当者
売上高だけでなく、客単価・粗利・再来場率を部門別に追うことが重要になる(イメージ)。

収益源を「来場前・滞在中・再訪後」で整理する

来場前には、オンライン前売り、レンタル予約、スクール、駐車場予約、宿泊とのセット販売があります。需要が見えるため、人員や在庫を先に組みやすいのが利点です。滞在中は飲食、レンタル、物販、アクティビティ、写真サービスなど。混雑時にも買いやすい導線とキャッシュレス化が機会損失を減らします。再訪後にはシーズン券、会員制度、次回来場特典、夏季体験があります。

レンタルとスクール

初心者や訪日客にとって、用具とレッスンは滑走体験の一部です。単品販売よりも「用具・ウェア・レッスン・リフト券」を分かりやすく束ねると、選択の負担を減らせます。ただし、在庫回転、乾燥・整備、インストラクター確保まで含めた原価管理が必要です。

飲食・物販・地域商品

飲食は単なる休憩場所ではなく、悪天候時にも満足度を支える重要な商品です。回転率だけを追うのではなく、ピーク前後の需要分散、モバイル注文、テイクアウト、地域食材の採用を検討します。土産品や地域商品の販売は、地域にお金を残しながらスキー場の物語を持ち帰ってもらう仕組みになります。

宿泊・交通・周遊

自社で宿泊施設を持たなくても、宿、バス、飲食店と共通商品を作ることはできます。観光庁はスノーリゾート形成で、二次交通、受入環境、コンテンツ造成、情報発信を地域一体で進める考えを示しています。スキー場単体の売上ではなく、地域全体の滞在消費を伸ばす視点が大切なポイントです。

グリーンシーズンは「冬の赤字補填」ではない

夏山リフト、マウンテンバイク、キャンプ、自然体験、ワーケーションなどは候補ですが、冬の設備をそのまま動かせば利益が出るとは限りません。誰が何のために来るのか、運営日数、保険、安全管理、環境負荷、地域競合を小さく検証し、継続できる商品だけを育てるという考え方もあります。通年雇用につながれば、人材面でも効果があります。

みんなで考える進め方:売上より先に顧客導線を見る

  1. 顧客層別に来場前から帰宅後までの行動を描く
  2. 混雑、不便、購入できていない場面を特定する
  3. 小さな商品でテストし、粗利と満足度を測る
  4. 好調な商品だけを予約・在庫・人員計画につなぐ
  5. 地域事業者と売上・送客・データの分担を決める

追うべきKPIは、来場者一人あたり売上、部門別粗利、予約率、在庫回転、飲食待ち時間、再来場率です。売上構成比だけでは、手間の大きい低採算商品を見落とします。

売上18万円でも、手元に残るのは?――小さな試算で判断する

新しい商品を始めるとき、私たちがまず見たいのは「売れそうな金額」より、追加の手間と費用を引いた残りです。次は実在施設の実績ではなく、編集部が作成した仮の飲食商品の計算例。客層や営業規模を決めつけず、同じ式に自社の数字を入れてみてください。

対象期間の来場者を1,000人、商品単価を1,800円とします。材料・包材費を売上の45%、決済手数料を2%、追加人件費を期間合計9万円と仮定すると、1件あたりの材料・包材・手数料を引いた残りは1,800円×(1-0.45-0.02)=954円です。

購入率だけを変えた試算(すべて同じ対象期間の仮定)
購入率販売件数追加売上材料・包材・手数料追加人件費を引いた残り
10%100件180,000円84,600円5,400円
20%200件360,000円169,200円100,800円
28%280件504,000円236,880円177,120円

この仮定で追加人件費を回収するには、90,000円÷954円を切り上げて95件の販売が必要です。ただし、この「残り」は会社の最終利益ではありません。設備投資、既存設備の減価償却、賃料、追加光熱費、広告費、廃棄、税金などは別に確認が必要です。売上18万円だけを見ると好調でも、購入率10%では残りが5,400円しかなく、少しの廃棄や追加作業で消えてしまいます。

既存の昼食からの乗り換えにも注意が必要です。新商品200件のうち150件が従来メニューから移ったのであれば、200件すべてを新しい売上増としては扱えません。従来品の売上と利益の減少を差し引き、混雑の増減も一緒に見ます。

始める前と始めた後に、同じ6項目を記録する

大きな設備を買う前に、対象客層と時間帯を絞って比較します。晴れた休日と雨の平日を単純に比べず、曜日・天候・来場人数の近い営業日を組み合わせると、変化を読み取りやすくなります。

記録する項目計算・測定方法見落としやすい点
購入率購入人数÷対象となる来場人数件数と人数を混ぜない。家族1組の会計も区別する
客単価対象部門の売上÷購入人数リフト券込みのセットは部門別に分ける
追加費用を引いた残り追加売上-材料・包材・手数料-追加人件費等既存商品の売上減と廃棄も記録する
待ち時間同じ時刻の受付・受渡し時間を測る平均だけでなくピーク時を見る
追加作業時間準備・販売・片付けを合計する残業や他部署の応援を含める
満足度と次回意向利用後に短い質問を同じ方法で集める「また来たい」と実際の再来場は分ける

売上が伸びても、レンタル受付から応援を呼んで別の列が長くなるなら、その商品だけの成功とは言いにくい。反対に、事前予約で受付の待ち時間を減らせる商品なら、直接の売上以外にも価値があります。売上・残る金額・現場の負担・お客さまの時間を並べて、継続・修正・中止を決める。この順序なら、小さな現場でも検証を積み重ねられます。

計算例・比較表:SNOW MAKING編集部作成。2026年10月5日追記。試算は仮定を置いた説明用で、特定施設の実績や利益予測ではありません。

一人のお客さまの一日を追ってみる

家を出る前の予約、駐車、着替え、レンタル、滑走、昼食、休憩、お土産、帰宅後の写真共有まで、接点は驚くほど多くあります。現場では、そのどこか一つの不便を解消したことが新しい売上につながる場合があります。たとえば事前予約で受付待ちが減れば、滑る時間が増え、昼食やレッスンにも気持ちよく時間を使ってもらえます。売上づくりと満足度向上は、別々ではないのかもしれません。

地域に残る売上まで見てみる

スキー場だけの会計では見えなくても、宿泊、温泉、飲食、交通、土産店に消費が広がれば地域全体の雇用と次の投資につながります。スキー場が地域商品を紹介し、地域側がゲレンデ情報を届ける。そんな往復が生まれると、来場者にとっても旅の物語が豊かになります。どこまで自社で行い、どこから仲間と組むか。この設計こそスノービジネスの面白さです。

ちょっと考えてみよう:ミニクイズ

Q. スキー場で新しい収益源を考えるとき、最初に見たいものはどれでしょう?

  1. A:空いている建物
  2. B:お客さまが困ったり待ったりしている場面
  3. C:他のスキー場の人気商品

答えと解説:Bが有力です。建物や事例もヒントになりますが、自分たちのお客さまの小さな不便から考えると、地域や規模に合ったサービスを育てやすくなります。

編集部と一緒に考えたいこと

すでに各地には、朝食付き早朝営業、地域の食を楽しむイベント、子どもの雪遊び、夏山体験など多彩な挑戦があります。うまくいった例だけでなく、試して分かったことも共有できれば、業界全体の知恵になります。SNOW MAKING編集部も、そんな現場の工夫をこれから集めていきたいと思います。

ここから、みんなで盛り上げていくために

リフト券以外の売上づくりは、施設を増やす競争ではありません。来場者の不便を減らし、滞在価値を高め、その対価がスキー場と地域に適切に戻る設計です。まず一つの顧客層、一つの導線、一つのKPIから始めることが、持続可能な収益構造への近道です。


参考:観光庁「国際競争力の高いスノーリゾートの形成」、同検討委員会とりまとめ報告書。参考資料確認:2026年10月5日。上の計算例と記録表は、資料の引用ではなく編集部による提案です。

SNOW MAKING編集部

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SNOW MAKING編集部

SNOW MAKING編集部は、スキー場経営、雪づくり、索道・設備、人材、地域観光など、日本のスキー産業を支える現場の挑戦と技術を取材・編集しています。利用者と産業の双方に役立つ、正確で読みやすい情報発信を大切にしています。

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