地域住民向けの割引券や年齢別のチケットをオンラインで売りたくても、最後に「身分証は窓口で確認してください」となる。繁忙期には、購入の手続きと本人確認の列が、ゲレンデへ向かう時間を削ってしまう。日本スキー場開発(NSD)が進める観光DXは、この小さく見えて大きい接点を変えようとしている。
NSDはデジタルID「xID」とマイナンバーカードの公的個人認証(JPKI)をリゾートのECシステムに連携し、オンラインで本人確認を済ませられる仕組みを導入すると発表した。地域居住者や年齢層、利用実績などに応じた柔軟なチケット価格の提供を目指す。また、株主優待券も2026年のウィンターシーズンから一部を電子化する計画だ。同社は2026年7月1日付で経済産業大臣の「DX認定事業者」に認定されている。
「割引の資格」をどう確かめるか
これまで地域割引やジュニア・シニア券では、現地窓口で運転免許証などを示して対象者か確認する場面があった。販売をネットに移しても、確認が窓口に残れば列はなくならない。公的個人認証を使って購入前に本人確認を完結できれば、利用者は出発前に手続きを済ませ、現場は確認業務を減らせる可能性がある。
同社がいう「フレキシブル・プライシング」は、日によって一律に価格を上下させるだけの仕組みではない。確かな本人確認を土台に、地域、年齢、利用実績などに合った券種や価格を提供する構想だ。どのリゾートで、いつ、どの券種から始まるかの詳細は今回の発表だけでは確定しない。利用者は実際の販売条件を各リゾートの案内で確認する必要がある。

紙の株主優待券から、使えるデジタル優待へ
もう一つの対象は株主優待だ。2026年ウィンターシーズンのリフト割引などから一部電子化を始め、株主専用ポータルとECをつないで、権利確認からチケットへの引き換えまでをウェブ上で行う計画という。紙の券を現場で提示し、引き換える手間が減れば、利用者にも窓口にも効果がある。
リリースは大人1日券について、通常窓口価格から約30%の割引を目指すと記している。これは現時点の全施設・全券種で確定した割引率を意味しない。対象や利用条件は、正式な優待案内を確認したい。
また、同社は本人確認に電子証明書を利用し、マイナンバー(個人番号)自体は取得・保有しないとしている。カードの活用と個人番号の収集は別の話だ。この区別を利用者に明確に伝えることも、デジタル券を使ってもらうために欠かせない。
すでにある「時間券」とキッズプログラムの次へ
NSDにとって、デジタル販売は突然始まる事業ではない。複数のスノーリゾートで使える「NSDキッズプログラム」や、ゲート通過時から1時間単位で減算する共通リフト時間券などを運用してきた。公式DX戦略によれば、EC基盤でのチケット購入枚数は2023年7月期の19.5万枚から、2024年7月期23.5万枚、2025年7月期29.8万枚へ増えたという。今回の本人確認連携は、既存の販売基盤で扱える券種を広げる一手と読める。
取締役CDOの高柳寛樹氏が率いる専門組織のもと、同社は顧客体験とデータ活用を経営戦略に位置づけている。券を売るだけでなく、誰がどのように山を利用するかを捉え、現場の運営や次のサービスに生かすことが狙いだ。ただし、オンライン化が進むほど、スマートフォンでの手続きに慣れない人への案内や、本人確認でつまずいた際のサポート設計も重要になる。ここは発表済みの運用ではなく、導入時に注目したい課題である。

スキー場のDXを測るとき、システムの機能数だけでは足りない。購入して、着いて、滑り始めるまでがどれだけ自然につながるか。繁忙日の列が短くなり、価格の選択肢が分かりやすくなって初めて、現場と利用者の双方に成果が見えてくる。NSDの取り組みは、その検証を業界に促す事例になりそうだ。
資料・画像:日本スキー場開発株式会社「日本スキー場開発、観光DX戦略を加速」(PR TIMES、2026年7月10日)およびNSDのDX戦略。リリースの画像はアイキャッチに、公式DX戦略サイトの画像は本文に使用しています。制度や計画の記述と編集部の分析を分けて記載しました。

