冬の朝、まだ薄暗い町でパン屋の明かりがつく。宿では朝食の準備が始まり、バスの運転手は道路の雪を確かめる。学校へ向かう子どもたちの横を、板を積んだ車が山へ向かっていく。少し離れたゲレンデでは、パトロールやリフト係が営業開始に備えています。
スキー場の一日は、ゲレンデの中だけで始まるのではありません。町のさまざまな場所で働き、暮らす人の一日と重なりながら動き出します。
スキー場が開く日は、地域にとってどんな日でしょう。
にぎわいが戻る日であり、仕事が増える日であり、同時に交通や除雪、ごみ、住まいについて考える日でもあります。
同じ「オープン日」でも、見えている景色は違う
飲食店にとっては、冬の売上を支える大切なシーズンの始まりです。宿泊施設にとっては、何か月も前から受けてきた予約を実際の滞在へつなぐ日。交通事業者にとっては、安全に多くの人を運ぶ日であり、近隣住民にとっては、いつもの道路が混み始める日でもあります。
どの視点も間違いではありません。スキー場と地域が共に成長するためには、にぎわいの明るい面だけでなく、暮らしの中に生まれる負担や戸惑いも同じテーブルに載せることが出発点になります。

町の声を聞いてみると、連携の入口が見えてくる
商店や飲食店の声——「来てほしい。でも、続けられる形で」
来訪者が増えることは歓迎でも、週末の一時に注文が集中し、人手が足りず、食材の手配が追いつかなければ、店にもお客さまにも負担が残ります。スキー場と町の営業時間、混雑情報、送迎の時間を共有するだけでも、人の流れを少し穏やかにできるかもしれません。
地域の食材や土産、修繕、除雪、ガイドを地元から調達できれば、ゲレンデで生まれた消費が町の中を巡ります。ただし「地元だからお願いする」だけでは長続きしません。必要な量、品質、価格、納期を早めに共有し、お互いが事業として続けられる条件を整えることが大切です。
住民の声——「観光の便利さが、暮らしの便利さにもなってほしい」
冬季バスが増えれば、高齢者や学生の移動にも役立つ可能性があります。除雪や通信環境、医療案内が整えば、住民の安心にもつながります。一方で、渋滞、路上駐車、夜間の騒音、ごみ、短期滞在者向け住宅の増加など、生活に近い場所ほど影響を受けやすい課題もあります。
観光の便益を地域サービスとしてどう返すのか。困りごとが起きたとき、どこへ伝えればよいのか。計画が固まってから説明するのではなく、計画の前から住民が話せる場をつくることで、「自分たちの知らないところで決まった」という距離を縮められます。
子どもや若い世代の声——「この町で働く未来が見える?」
スキー場には、索道、整備、降雪、圧雪、パトロール、調理、宿泊、マーケティング、ITなど、外からは見えにくい多くの仕事があります。学校との雪上体験や職場見学、地域の大人との交流は、スキーを楽しむ機会であると同時に、故郷にある仕事を知る機会にもなります。
若い世代が一度町を離れても、経験を持って戻れる仕事があること。冬だけでなく、グリーンシーズンの観光や施設管理、地域事業へ仕事をつなげられること。スキー場の成長を「来場者の数」だけでなく、「地域で選べる未来が増えたか」で見る視点も必要です。
来訪者の声——「ゲレンデの外も、旅の思い出です」
旅行者には、スキー場、駅、バス、宿、飲食店、温泉の運営主体の違いはほとんど見えていません。駅からのバスが分かりにくければスキー旅行全体が不便に感じられ、町で出会った料理や人が心に残れば、それが再訪の理由になります。
共通マップ、営業情報、荷物預かり、リフト券の受け取り方、夜の移動手段。事業者ごとには小さな情報でも、地域でつながれば旅はぐっと滑らかになります。スキー場から町へ、町からゲレンデへと自然に人が巡ることで、滞在時間も思い出も豊かになります。
「助けてもらう関係」から、「一緒につくる関係」へ
地域連携という言葉は、ときに「地域がスキー場を支えること」のように聞こえます。しかし本来は、一方がお願いし続ける関係ではありません。スキー場も地域の交通、雇用、教育、防災、文化を支え、地域の魅力もスキー場の価値を高める。互いに受け取るものと担うものを見えるようにすることが、対等な関係につながります。
| 一緒に見たいこと | 地域にとっての意味 | スキー場にとっての意味 |
|---|---|---|
| 二次交通 | 住民の移動手段、渋滞の軽減 | 来場しやすさ、車を持たない人への対応 |
| 地域調達 | 売上と仕事が町に残る | その土地らしい体験が生まれる |
| 人材・住まい | 住宅や生活環境への負担を整える | 採用と定着を支える |
| 防災・情報 | 住民と旅行者の安心 | 非常時の混乱を減らす |
| 子ども・教育 | 地域への理解と誇り | 将来の担い手との接点 |
良いことだけでなく、負担も数字と言葉にする
来場者数やリフト券売上だけを見ても、地域の実感は分かりません。宿泊日数、地域内での消費、公共交通の利用、地元からの調達、雇用、再来訪に加えて、渋滞、ごみ、住宅、除雪、住民の満足度なども一緒に見ます。
数字は誰かを評価するためだけのものではありません。「飲食店に人が流れていない」「特定の時間だけ道路が混む」「スタッフの住まいが足りない」といった感覚を共有し、次の一手を話しやすくする共通言語です。良い変化も負担も隠さず確かめることが、信頼をつくります。
大きな計画の前に、今冬からできること
- 困りごとを一枚の地図にする——渋滞、路上駐車、案内不足、買い物、夜の移動を地域と来訪者の両方から書き込む
- 営業・交通情報を一緒に発信する——スキー場だけでなく、バス、飲食、温泉、医療など冬に必要な情報をまとめる
- 地域で働く人の住まいと移動を考える——寮、空き家、送迎を一社だけの問題にしない
- 地元調達の相談を早く始める——量、時期、価格をシーズン直前ではなく計画段階から話す
- 子どもたちに舞台裏を開く——雪上体験だけでなく、圧雪、索道、整備、接客など多様な仕事を見せる
- 非常時の連絡先をそろえる——豪雪、停電、交通遮断の際に、住民と旅行者へ同じ情報が届くようにする
最初から大規模施設や完璧な仕組みを目指さなくても構いません。宿泊予約と連動した小さなシャトル実証、飲食店の混雑情報の共有、共通の初心者案内など、目の前の不便を一つ解くことが次の協働につながります。
会議で最初に聞きたい、五つの声
- 毎日の生活で、冬に一番困っていることは何ですか。
- スキー場があることで、地域に残したい良い変化は何ですか。
- にぎわいの一方で、誰にどんな負担が偏っていますか。
- 子どもたちに、どんな冬の町を渡したいですか。
- 来訪者に、ゲレンデ以外の何を好きになってほしいですか。
スキー場、自治体、観光協会、交通、宿泊、商店、そして住民。立場が違えば答えも違います。その違いを急いで一つにするのではなく、まず聞き、共通する願いと調整が必要な負担を見つける。会議の回数よりも、声を受けて何が変わったかを確かめることが重要です。
目指したいのは、「スキー場の町」ではなく「スキー場がある町」
地域の暮らしは、観光のためだけにあるわけではありません。同時に、スキー場も地域から切り離された施設ではありません。住む人が誇りを持ち、働く人が安心して暮らし、訪れた人がまた帰ってきたいと思う。その三つが重なる場所に、長く続く雪国の魅力が生まれます。
一本のリフトが動くことで宿に灯りがともり、町の店に笑顔が増える。町の料理や文化、人との出会いが、スキー場で過ごした一日を忘れられない旅にする。そんな循環は、どちらか一方の成長ではつくれません。
SNOW MAKINGでは、華やかな成功事例だけでなく、住民との対話、うまくいかなかった試み、小さくても暮らしを良くした工夫を集めていきたいと考えています。地域ごとに雪も歴史も違うからこそ、答えも一つではありません。それぞれの町に合う関係を、皆さんと一緒に探していけたらと思います。
参考:観光庁「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進に向けた検討委員会」とりまとめ、観光庁「国際競争力の高いスノーリゾートの形成」。資料は2026年9月時点。

