海外のスキー場から日本のスキー産業は何を学べるか――コロラド・LOVELANDで見た“ローカル”の強さ

LOVELAND SKI AREAの広大な雪山とリフト スキー場経営
「ローカルなスキー場」と聞いて、どんな姿を思い浮かべますか?
小さくて素朴な場所でしょうか。それとも、地域の滑り手に長く愛される山でしょうか。コロラド州のLOVELAND SKI AREAを訪れると、そのイメージは心地よく裏切られます。宿泊施設を抱える巨大リゾートではないのに、山は驚くほど広く、標高約4,000mの稜線へ無料のスノーキャットが走る。そこには、日本のスキー場の未来を考えるヒントがいくつもありました。
LOVELAND SKI AREAの広大な雪山とリフト
標高の高い稜線までフィールドが広がるLOVELAND SKI AREA。写真は筆者撮影。

筆者がLOVELANDを訪れたのは2018年。今回は当時の現地体験と写真を取材記録として使いながら、2026年9月時点の公式情報を確認し、日本のスキー産業に生かせる視点からあらためて構成しました。

「海外は広い、日本は狭い」と比べるだけでは、学びは生まれません。地形も雪も制度も市場も違います。それでも、LOVELANDが何を選び、何を持たず、どんな価値を守っているのかを見ると、日本のスキー場にも応用できる考え方が見えてきます。

まず現在地――2026-2027シーズンへ更新が続くLOVELAND

2026年9月22日現在、LOVELANDは2025-2026冬季営業を終え、2026-2027シーズン券を販売しています。公式サイトでは今も、デンバーから西へ53マイル、1,800エーカーの地形、無料の近接駐車場、Continental Divide沿いの無料スノーキャットを中核価値として掲げています。

一方で、昔の姿をそのまま守るだけではありません。1975年に設置され、BasinとValleyを結んできたChair 5は役目を終え、2026-2027シーズン券保有者を対象に旧搬器を販売する企画も行われています。古い設備を更新しながら、その歴史をファンとの接点へ変える。設備更新を「撤去のお知らせ」だけで終わらせない姿勢も興味深いところです。

変わらない価値と、変えるべき設備を分けて考える。
LOVELANDが守っているのは古いリフトそのものではなく、地域の滑り手が山へ通い続けられる環境です。日本でも設備の老朽化が進むなか、更新の目的を「新しくすること」ではなく、「その山らしい体験を次の世代へ残すこと」と言語化する必要があります。
53 milesデンバーから西へ
1,800 acres公式案内の滑走エリア
13,010 ft山域最高地点の目安
Family-owned家族経営の独立系

高速道路を降りたら、そこが雪山だった

滞在していたコロラド州ゴールデンから車でおよそ1時間。広いハイウェイをロッキー山脈へ向かって走り、出口を降りるとLOVELANDはすぐ目の前に現れます。公式サイトではデンバーから西へ53マイル、I-70の216番出口と案内されています。

道路から見えるLOVELAND SKI AREAの入口
道路の先にゲレンデが見えるLOVELANDの入口。目的地へ着くまでの分かりやすさも体験価値の一部です。

印象的だったのは、アクセスの分かりやすさです。山岳リゾートへ向かう高揚感はありながら、最後に細い生活道路を長く走ったり、到着してから駐車場を探し回ったりする感覚が少ない。しかも公式には近接駐車場を無料としています。

ここで一問。お客様にとって「スキー場の始まり」はどこでしょう?リフトに乗った瞬間ではありません。ルート検索をした時、道路標識を見た時、駐車場所を探した時から体験は始まっています。日本でも料金やコースだけでなく、「迷わず着ける」「荷物を運びやすい」「帰り道まで安心」という価値を、もっと正面から伝えられそうです。

山を“コースの集合”ではなく、一つのフィールドとして見せる

現地でトレイルマップを見た時、紙の上だけでは広さをつかみきれませんでした。リフトを乗り継ぎ、横へ移動し、稜線へ近づくほど、決められた線を滑るというより「山全体から自分の一本を選ぶ」感覚が強くなります。

LOVELAND SKI AREAの現地トレイルマップ
現地のトレイルマップ。広い山域の中から、レベルや雪質に合わせて一日を組み立てます。

もちろん、どこでも無条件に安全という意味ではありません。標高、風、視界、雪崩地形、体力を理解し、自分で判断する文化が前提にあります。チケット購入時には端末で必要事項や承諾内容を確認し、そのうえで山へ入っていく流れでした。

日本のスキー場は、コース境界や安全管理を明確にしながら高品質な圧雪バーンを提供する点に強みがあります。一方LOVELANDでは、地形の選択肢と自己判断そのものが商品になっていました。どちらが優れているという話ではなく、「自分たちの山の何を価値として編集するか」が違うのです。

見るポイント LOVELANDで感じたこと 日本のスキー場で生かせる視点
ゲレンデの見せ方 山域全体を探索するフィールドとして提示 圧雪品質、地形、眺望、時間帯など「一本ごとの物語」を言語化する
アクセス 高速道路出口から近く、無料の近接駐車場を訴求 料金だけでなく、到着から滑走開始までの分かりやすさを磨く
安全 広い選択肢と自己判断をセットで設計 禁止事項の表示だけでなく、判断材料を渡す案内へ
施設 豪華さより、山で必要な機能と居心地を重視 小規模でも「ここに戻りたい」と思える拠点をつくる

無料スノーキャットは、豪華設備ではなく“山への入口”

リフトで行ける高所からさらにトラバースすると、スキーやスノーボードを積んだスノーキャットが待っていました。公式サイトでも、Continental Divide沿いの無料スノーキャットスキーをLOVELANDの特徴として紹介しています。

スキーを積み込むLOVELANDのスノーキャット
スキーを積み、稜線側へ滑り手を運ぶスノーキャット。

興味深いのは、スノーキャットが単なる特別感の演出ではないことです。既存の地形と雪を生かし、リフトだけでは届きにくい場所へ人をつなぐことで、山の価値を広げています。巨大な新設投資とは違う形で、体験の面積を増やしているとも言えます。

日本で同じ設備を導入すればよい、という結論ではありません。
大切なのは、自分たちの山にすでにある資源を見直すことです。景色のよい短いハイク、朝一番の圧雪ツアー、降雪機や圧雪車を知るバックヤード企画、地域ガイドとの雪上散策。新しい大型設備がなくても、「普段は通り過ぎる場所」を体験へ変える余地があります。

標高約4,000m。景色の裏側にある“説明する責任”

筆者が訪れた日は、スノーキャットの表示に13,010フィートとありました。メートル換算で約3,965m。富士山より高い場所です。実際、一本滑るだけでも呼吸が整うまで休みたくなるほど、平地とは体の感覚が違いました。

稜線から滑り出す様子。広さと自由には、天候・標高・体力を読む力も求められます。

魅力的な体験ほど、リスクの説明が欠かせません。海外の自由な雰囲気だけを切り取るのではなく、その自由を成立させる情報提供、パトロール、境界表示、利用者の理解まで含めて見る必要があります。

日本でもインバウンド客や初来場者が増えるほど、「常連なら分かる」は通用しにくくなります。気温、風、最終リフト、戻り方、必要な装備、救助時の連絡方法。安全情報を恐怖ではなく、山を楽しむための道具として伝える工夫は、これからさらに重要になるでしょう。

豪華さよりも、山の中に“戻れる居場所”がある

一日中大きな山を移動していると、ゲレンデ中腹の木造キャビンとテラスが強く記憶に残ります。華美ではありませんが、冷えた体を休め、景色を眺め、次の一本を相談できる。山の体験に必要なものが、過不足なく置かれていました。

LOVELANDのゲレンデ中腹にある木造キャビンとテラス
ゲレンデ中腹の木造キャビン。休憩場所そのものが山の記憶になります。

日本のスキー場では、レストランの席数や回転率が大きな課題になりがちです。それは重要な経営指標です。一方で、無料休憩所、屋外ベンチ、小さな山小屋のような「売上を直接生まない場所」が、滞在時間や満足度、再来場意向を支えることもあります。

大きな建物を新設する前に、窓から何が見えるか、濡れた手袋を置けるか、仲間を待てるか、地域らしい素材や物語があるか。居場所の質は、投資額だけでは決まりません。

「泊まるリゾート」ではなく、「滑りに帰る山」という選択

LOVELANDには、山麓に大型ホテルや高級ショッピング街が連なる総合リゾートとは異なる空気があります。公式サイトが掲げるのは、家族経営、アクセスの良さ、無料駐車場、長い営業期間、そして混雑や煩わしさの少ない純粋な雪山体験です。

これは「施設が少ない」ことを弱点のままにせず、「滑ることへ集中できる山」として価値に変える考え方です。すべてを場内で完結させるのではなく、日常の延長で何度も通える場所として、地域の滑り手との関係を深めています。

あなたのホームゲレンデを選ぶ決め手は何でしょう?最大規模や最新設備だけではなく、駐車しやすい、スタッフの顔が見える、好きな一本がある、短時間でも滑りに行ける――。繰り返し訪れる理由は、案外こうした小さな確信の積み重ねです。

日本にも、宿泊施設を持たない、あるいは規模が大きくないスキー場は数多くあります。その条件をすぐに不利と捉えるのではなく、周辺の温泉や宿、飲食店と役割を分け、スキー場は雪上体験の質へ集中する。地域全体で滞在をつくる視点があれば、投資を一施設へ集中させずに魅力を広げることもできます。

人手不足を「採用」だけで解かない――通勤と住まいまで設計する

LOVELANDの現在の採用ページを見ると、従業員の多くはI-70沿線の小さな山岳地域やデンバー西部に住み、Goldenとスキー場を結ぶ無料従業員シャトルを利用できると案内されています。周辺の長期滞在先や住宅情報もまとめ、応募後の生活を具体的に想像できるようにしています。

これは、人手不足を求人広告だけの問題にしない考え方です。山で働きたい人がいても、冬道を運転できない、住まいが見つからない、家賃が合わないという理由で就業に至らないことがあります。通勤と住居を運営側の課題として扱うことで、採用可能な範囲そのものを広げています。

働く人の障壁 LOVELANDの現在の案内 日本で考えられる対応
冬道の通勤 Goldenから無料従業員シャトル 駅・市街地・寮を結ぶ共同送迎、近隣事業者との相乗り
住居探し 沿線地域や長期滞在候補を具体的に掲載 空き家、旅館、社員寮を地域横断で可視化
働く生活の想像 山と都市、周辺地域での暮らしも紹介 業務内容だけでなく休日・買物・医療・交通まで伝える

一つのスキー場だけで送迎や寮を維持するのが難しければ、自治体、宿泊施設、索道事業者、飲食店が共同で仕組みを持つ方法もあります。「人を採る」から「冬の働く生活をつくる」へ視点を広げることは、日本の雪国にとって大きなテーマです。

日本のスキー場が持ち帰れる、3つのヒント

1.持っていないものより、山にあるものを編集するLOVELANDは大規模ホテルを持たなくても、標高、地形、雪、アクセスを明確な価値にしています。
2.自由と安全を対立させない選択肢を増やすほど、判断材料と案内を丁寧にする。安全管理は体験を狭めるためではなく、広げるためにあります。
3.地域の滑り手を中心に据える遠方客向けの派手さだけでなく、何度も来る人の使いやすさと愛着を育てることが、長いブランドになります。

もちろん、日本には日本ならではの魅力があります。きめ細かな接客、丁寧な圧雪、温泉、食、雪国の暮らし、公共交通で行ける山。海外の形をそのまま輸入する必要はありません。むしろLOVELANDから学べるのは、「自分たちの山らしさを、迷わず磨く」という姿勢です。

大規模化だけが成長ではない。すべての人に選ばれなくても、誰にとってのホームマウンテンになるのかを明確にする。そう考えると、日本各地のローカルスキー場にも、まだ言葉になっていない大きな価値があるのではないでしょうか。

LOVELANDの現在の情報を確認する営業期間、雪況、チケット、利用条件は渡航・来場前に公式情報をご確認ください。
LOVELAND SKI AREA公式サイト

現地取材・写真:筆者による2018年のLOVELAND SKI AREA訪問記録。
参考:LOVELAND SKI AREA公式サイト(トップページ、採用情報、Lift 5 Lottery)。本記事は現地で得た体験と写真をもとに、SNOW MAKING編集部が2026年9月22日時点の公式情報を確認し、スキー場経営・人材・地域・利用者体験の観点から独自に構成しました。施設、サービス、営業条件は変更される場合があります。

SNOW MAKING編集部

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SNOW MAKING編集部

SNOW MAKING編集部は、スキー場経営、雪づくり、索道・設備、人材、地域観光など、日本のスキー産業を支える現場の挑戦と技術を取材・編集しています。利用者と産業の双方に役立つ、正確で読みやすい情報発信を大切にしています。

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