山肌は茶色く見えるのに、滑走コースだけは白く、はっきりとつながっている。韓国・平昌のPhoenix Snow Parkで目にしたのは、降雪を待つのではなく、必要な雪を計画的につくって営業を成立させるリゾートの姿だった。2018年平昌冬季オリンピックの会場となったこの場所から、日本のスキー場経営に持ち帰れるものを考える。

日本から近く、国際大会の開催実績もある。それでも、韓国のスキー場が日本語で詳しく紹介される機会はまだ多くない。Phoenix Snow Parkは「韓国でも滑れる」というだけの場所ではない。自然条件の違いを設備と運営で補い、スキーを都市生活者が選びやすいレジャー商品へ変換した好例である。
Phoenix Snow Parkとは――標高700mの高原に広がる複合リゾート
Phoenix Snow Parkは、韓国・江原特別自治道平昌郡の標高約700mの高原に位置する。公式サイトでは、スノーパークに加え、ホテル・コンドミニアム、ゴルフ場、ウォーターパーク「Blue Canyon」などを備えるオールシーズン型の複合リゾートとして紹介されている。
2018年平昌冬季オリンピックでは、フリースタイルスキーとスノーボード競技の舞台になった。モーグル、エアリアル、スロープスタイル、ハーフパイプ、スノーボードクロスなど、雪面づくりと造成技術が結果を左右する種目を受け入れたことは、このリゾートの性格をよく表している。

最大の違いは「雪を待つ」のではなく「雪を生産する」こと
日本の豪雪地帯では、天然雪の量と質そのものが強い商品になる。一方、平昌は冬の冷え込みが厳しくても、日本海側の山岳地域のように大量の自然雪が繰り返し降る環境とは異なる。取材時も空はよく晴れ、コース外には土や草木が見える一方、営業コースには人工雪が途切れず敷かれていた。

ここで人工降雪機は、天然雪が足りない日に使う「補助設備」ではない。営業開始日、滑走幅、必要積雪量、パーク造成、補修の優先順位を組み立てるための生産設備に近い。低温という気象資源を、水・電力・配管・オペレーションと結びつけ、来場者に提供できる雪へ変えるのである。
人工雪主体のバーンは、天然のパウダースノーとは性格が異なる。締まりやすく、時間帯や気温によって硬さが大きく変わるため、滑走者にはエッジの整備と硬い雪面への対応が求められる。しかし運営側には、コースの品質をある程度計画しやすく、競技バーンやアイテムを反復して整備できる強みがある。
Phoenix Snow Parkが示すのは、「降った雪を売る」モデルだけではなく、「滑れる状態を設計して売る」モデルだ。
五輪施設を「大会の遺産」で終わらせない
国際大会向け施設は、建設した瞬間よりも大会後の運営が難しい。巨大なジャンプやパークは、維持費、安全管理、利用者レベルとのミスマッチという課題を抱える。重要なのは、五輪仕様をそのまま保存することではなく、一般営業、選手育成、キャンプ、イベントへどう再編集するかだ。

Phoenix Snow Parkの価値は、「平昌五輪の会場だった」という肩書きだけではない。人工降雪、雪上造成、コース管理、観客と選手の動線、宿泊・飲食を一体で運用した経験が組織に残る。これは日本でも、国体や国際大会を誘致する地域、パークや競技拠点を持つスキー場が参考にできる視点だ。
ベースに機能を集め、初めての来場者を迷わせない
現地で印象的だったのは、複数のコースが中央のベースエリアへ戻りやすく、ホテル、センターハウス、飲食、レンタル、スクールなどがまとまっていたことだ。初めて訪れる人でも「どこへ戻ればよいか」を理解しやすい。同行者とレベルが違っても、集合場所を決めやすい。

週末のベースは多くの利用者でにぎわっていた。それでも、大量輸送できる索道と集約された施設によって、人の流れを処理しようとする設計意図が見える。混雑をゼロにするのではなく、迷い、移動、待ち合わせ、食事といった「滑っていない時間」の負担を減らす発想である。
スキー場ではなく「冬の一日」を売る
韓国では、スキー・スノーボードの熱心な愛好者だけでなく、友人や家族と冬のレジャーを楽しむ都市生活者も重要な顧客になる。だからこそ、ゲレンデ以外の滞在品質が大きい。寒さから逃れられる大規模な屋内空間、選びやすい飲食、わかりやすい案内、宿泊施設との近さは、滑走本数とは別の満足度をつくる。


公式サイトを見ると、現在もスノーパークだけでなく、外国人向けスノースクール、そり遊び、スパ、キッズラウンジ、ボウリング、ゲーム、カラオケ、ペット関連施設、ショップ、飲食などが案内されている。リフト券を売って終わるのではなく、滞在中の複数の消費機会を設計する複合リゾートの考え方が明確だ。
首都圏市場と結ぶアクセス設計
公式アクセス案内では、KTX京江線でソウルから平昌まで約1時間30分とされている。駅からリゾートまでの最終区間は、運行時期に応じたバスやタクシーなどの確認が必要だが、巨大な都市市場から「日常の延長」で雪山へ向かえる距離感は大きい。
これは日本の都市近郊型スキー場にも共通する。競争相手は他のスキー場だけではなく、テーマパーク、ショッピング、温浴、スポーツ観戦など、都市生活者の休日を奪い合うすべてのレジャーだ。アクセス時間だけでなく、予約、移動、レンタル、食事、帰宅までの不安を減らすことが集客になる。

日本のスキー場が持ち帰れる5つの視点
- 人工降雪を「保険」ではなく商品品質への投資として考える
どのコースを、いつまでに、どの幅で開けるか。降雪設備と圧雪を営業計画・料金・予約販売まで接続する。 - ベース機能を集約し、顧客の迷いを減らす
更衣、レンタル、スクール、食事、待ち合わせの移動時間を短くするほど、初心者と家族の体験は改善する。 - 競技設備を年間の人材・集客装置へ変える
大会後も選手育成、キャンプ、体験会、観戦コンテンツとして回せる運営体制を先に設計する。 - 「滑る人」だけでなく同行者の時間も商品化する
温浴、キッズ、飲食、屋内アクティビティを組み合わせ、グループ全体の来場ハードルを下げる。 - 都市からの一連の導線を経営範囲として捉える
駅や空港からの二次交通、多言語案内、予約、道具の受け取りまでを一つのサービスとして整える。
ただし、人工降雪は万能ではない
人工降雪には水、電力、設備投資、保守、人材が必要で、気温や湿度の条件にも左右される。大量に造雪すればすべて解決するわけではない。環境負荷や水資源への配慮、収益性、利用者が求める雪質とのバランスも欠かせない。
日本には、世界的にも希少な天然雪と山岳景観がある。Phoenix Snow Parkから学ぶべきなのは天然雪を人工雪に置き換えることではなく、自然条件の弱点を把握し、設備・動線・商品・情報発信を一つの運営システムとして組み立てる姿勢だ。天然雪の魅力に頼れる地域ほど、その価値を安定して届ける仕組みが問われる。
訪れる前に知っておきたいポイント
- 防寒は日本の感覚より一段厚く:晴れていても気温が低く、風が加わると体感温度が大きく下がる。顔・手・足先の防寒を優先したい。
- エッジの状態を確認:人工雪主体の締まったバーンに備え、板のエッジを整えておくと安心。
- 週末・繁忙日は早めに行動:レンタル、スクール、食事、帰路の交通を含めて事前に計画する。
- 営業情報は公式サイトで最終確認:運行リフト、滑走コース、料金、交通手段は天候や時期で変わる。出発前に最新情報を確認したい。
まとめ――雪の量ではなく、体験を成立させる力を見る
Phoenix Snow Parkを歩くと、日本のスキー場の強さと課題が同時に見えてくる。日本には豊富な天然雪がある。一方の韓国には、厳しい寒さを人工降雪に変え、五輪施設、宿泊、飲食、都市圏アクセスを一つの商品として束ねる運営力がある。
海外のスキー場を知る意味は、規模や設備をそのまま比較することではない。「その土地に足りないものを、どのように経営で補っているか」を見ることにある。自然雪を待たず、滑れる一日を計画的につくるPhoenix Snow Parkは、日本のスキー産業が気候変動と市場縮小に向き合ううえで、示唆の多い現場だった。
施設情報
- 施設名:Phoenix Snow Park(Phoenix Pyeongchang)
- 所在地:174 Taegi-ro, Bongpyeong-myeon, Pyeongchang-gun, Gangwon-do, Korea
- 公式サイト:Phoenix Pyeongchang(英語)
- アクセス案内:公式交通案内
参考資料・出典
※本文中の現地描写はSNOW MAKING編集部による訪問・撮影時の記録に基づきます。営業内容、料金、交通手段は変更される場合があります。渡航・来場前に必ず公式情報をご確認ください。

