日本のスキー市場は、2035年に向けて伸びる。そんな予測が発表された。雪不足や国内の滑走人口の先行きを考えると、意外に感じる経営者もいるかもしれない。
ただし最初に、数字の「範囲」を確認しておきたい。株式会社マーケットリサーチセンターが公表したのは、スキー板・ストック、ブーツ、保護具・アクセサリーなどを製品別に分析した日本のスキー市場の見通しだ。全国のスキー場のリフト券・宿泊・飲食をすべて足し合わせた売上高ではない。その前提に立つと、数字は施設経営にも役立つ問いを投げかけてくる。
2025年の市場規模:5億5,012万米ドル(発表資料の推計)
2035年の市場規模:7億420万米ドル(予測)
2026〜2035年の年平均成長率:約2.5%(予測)
両時点の差は約1億5,408万米ドル。市場が伸びるという予測自体よりも、誰が、どこで、何を選ぶことが成長を支えるのかが、現場にとって重要だ。
「市場が成長する」=「来場者が増える」ではない
発表資料は、国内のスキー参加者の縮小傾向を挙げる一方で、訪日旅行者のスキー需要、高価格帯の用品、リゾートでのレンタルや販売を成長要因としている。たとえば一人の旅行者が、より質の高いレンタルを選び、ブーツの調整を受け、滞在中にアクセサリーを購入すれば、滑走人数が同じでも用品に関わる支出は変わり得る。
ここは読み違えたくない。今回の市場予測を、そのまま「各スキー場の売上が毎年2.5%増える」と読み替えることはできない。経営者が見るべきなのは全国平均ではなく、自分たちの山に来る人の過ごし方と、そこで生まれる消費だ。
レンタルは「貸す場所」から体験の入口へ
リリースでは、スキーブーツの年平均成長率を約2.8%と予測し、フィット感や快適性を高める技術に注目している。さらに、現地で高品質な用品を借りたい旅行者の需要も指摘する。
スキー場で考えるなら、板の在庫を増やすことだけが答えではない。借りる前に希望を伝えられるか。雪質やレベルに合う選択肢があるか。ブーツが痛いときに相談できるか。返却まで迷わず動けるか。レンタルの品質は、朝の出発から最後の一本までの体験を左右する。
高価格の用品を用意することだけが「高付加価値」ではない。初心者が靴の痛みで一日を終えないこと、旅行者が予約したサイズをすぐ受け取れることも価値になる。小規模な施設でも、受け渡しの設計やスタッフの説明から改善できる。
ネットで選び、山で仕上げる
流通の予測では、オフラインが最大の販売経路であり続ける一方、オンラインの年平均成長率は約3.8%と、全体の約2.5%を上回る。ここから「店舗は不要になる」と結論づけるのは早い。ブーツの履き心地やレンタル品の調整は、現場に人と技術があってこそ成立する。
経営上の着眼点は、予約は出発前、最終的な調整は現地というつながりだ。事前に用品やサイズを選べれば、当日の列や作業量を見積もりやすくなる。現地ではスタッフが状態を確かめ、必要な交換や提案をする。デジタル化が接客を消すのではなく、接客に使える時間をつくる可能性がある。
経営会議で、この予測をどう使うか
| 見るべきこと | 自社で確かめたい数字 |
|---|---|
| レンタルの需要 | 利用率、機材ごとの稼働、交換・調整の件数 |
| 予約から受け取りまで | 事前予約比率、受け取り待ち時間、当日の欠品 |
| 利用者の広がり | 国内・訪日客別の再訪、初心者の継続利用 |
これは発表資料の数値ではなく、編集部が経営判断のために挙げた確認項目だ。全国市場が拡大しても、自社のレンタルが使われず、初めて来た人が翌年戻らなければ、成長は自分たちの山には届かない。
訪日客を迎えながら、国内の入口を細らせない
海外からの需要が伸びるほど、その受け皿となる地域や施設には機会が生まれる。同時に、旅行需要は為替や交通など外部の変化を受ける。リリースも国内参加者の減少を課題として挙げている。地域の子どもや初心者が手の届く形で雪山に来られることは、長期的には産業の基盤をつくる。
市場の予測値は、未来を保証する数字ではない。だからこそ「市場が伸びるか」だけで終わらせず、「自分たちのゲレンデで誰の一日をどう良くするか」まで落とし込む。それが、この発表をスキー場経営に引き寄せて読む意味だ。
出典:株式会社マーケットリサーチセンター「スキーの日本市場(2026年-2035年)、市場規模・分析レポートを発表」(アットプレス、2026年8月19日)。市場規模・成長率は同社発表の推計・予測です。公開されたリリースからは調査手法や市場範囲の詳細を独立に検証できないため、スキー場事業全体の規模や将来売上と同一視しないでください。経営上の問いと確認項目はSNOW MAKING編集部による整理です。図版:SNOW MAKING編集部/データ出典:同リリース。

