スキー場を「残す」とは、何を残すことだろう。リフトやゲレンデだけなら、冬の数カ月をどうにか乗り切ればよいのかもしれない。だが、山で働く人、その仕事を受ける地元企業、雪山で初めて滑る子ども、夏にも訪れる旅行者まで考えると、問うべきものはずっと大きくなる。
兵庫県養父市に本社を置く株式会社マックアースは、スキー場の再生と運営を起点に、この問いに向き合ってきた企業だ。公式サイトに掲載するスノーリゾートは、長野・岐阜・滋賀・兵庫・広島の5県15施設。大規模な高鷲スノーパークやダイナランドから、地域に根ざしたスキー場まで顔ぶれは幅広い。さらに2017年には、兵庫県神河町で「日本で14年ぶり」と同社が位置づける新規スキー場、峰山高原リゾート ホワイトピークを開業した。
既存施設を立て直すだけでなく、新しい雪山までつくった。その両方を手がけた会社の仕事を追うと、いまスキー産業が抱える課題と、次の打ち手が見えてくる。
SNOW MAKING / この記事の視点
再生とは、古い施設をきれいにすることだけではない。「誰が訪れ、誰が働き、雪のない時期に何が起きるか」まで設計し直すこと。その実例として、峰山高原の新規開業、奥美濃の大規模運営、びわこ箱館山の通年化を見ていく。
山の営業を、一社で抱え込まない
スキー場には、降雪や索道の設備投資だけでなく、整備、採用、集客、宿泊、飲食、さらには自治体との調整がある。単独の施設がすべてを背負うと、雪の少ない年や設備更新の時期に経営が急に苦しくなる。だからといって、複数の山を同じ売り方に揃えればよいわけでもない。
マックアースが示すのは、運営の「共通化」と、体験の「個別化」を分ける発想だ。同社は、経理・総務の集中化、共同購入、グループでの販促やノウハウ共有を再生の手法として挙げる。一方、来場者に提供する価値は、地形、立地、気候、文化、客層に合わせて設計すると説明している。
現場で考えれば分かりやすい。仕入れや事務処理を共同で効率化しても、初心者向けの山を競技者向けに変える必要はない。浮いた資源を、その施設の安全、雪づくり、接客、設備へどう戻すかが肝になる。スケールメリットは、山の個性を消すためではなく、個性を続けられる体力をつくるために使える。

閉じる時代に、なぜ新しいスキー場を開いたのか
象徴的なのが、2017年の峰山高原リゾート ホワイトピークだ。マックアースの会社沿革は、これを「日本で14年ぶりのスキー場」開業と記している。既存施設の再生を進めてきた企業が、国内で新たなスキー場をつくる側にも回った。この対比は、同社の姿勢をよく表している。
兵庫県神河町の峰山高原では、ホテルリラクシアとキャンプ場を2015年から指定管理で運営し、スキー場は2017年に指定管理を開始した。公式サイトの掲載値では、ホワイトピークは総面積7.6ha、リフト2基。巨大リゾートをそのまま複製したわけではない。すでにある宿泊と高原の魅力に、冬の新しい利用目的を加えたと読むことができる。
ここにあるのは「大きければ勝てる」という話ではない。冬を始める前から、その土地にどのような滞在と運営の土台があるか。雪遊びを始める家族をどう迎えるか。冬とそれ以外の季節を一つの場所としてどうつなぐか。新設を判断する際にも、問われたのは地域全体の使い方だったのではないか。
もちろん、新設スキー場の投資額、収支、地域への波及額など、公開資料だけで効果を断定できるわけではない。だからこそ、開業という事実を単なる成功談で終わらせず、どの条件を揃えて実行したのかを読み解く価値がある。

大きな山にも、小さな山にも、同じ処方箋はない
岐阜県・奥美濃の高鷲スノーパークとダイナランドは、マックアースグループの中部スノーアライアンスが運営する。公式掲載の総面積はそれぞれ100haと80ha。広い滑走エリアと集客力を持つ山々は、グループの存在感を示す分かりやすい例だ。
一方、同じグループには7.6haの峰山高原や、30haのちくさ高原スキー場もある。規模が違えば、必要なリフト投資も、求められる体験も、近隣の人との付き合い方も変わる。奥美濃の大規模施設のノウハウを全国へ機械的に当てはめるのではなく、大きな山で得た知見を、小さな山に必要な形へ翻訳できるか。運営会社の実力は、施設数そのものより、そこに表れるはずだ。
また、共通シーズン券のように複数施設をつなぐ商品は、滑る人に行き先の自由を与える。運営側には、地域や積雪条件が異なる山の魅力を届ける接点となる。ただし、券の対象施設数とグループの運営施設数は同じではない。「使えるスキー場」と「運営しているスキー場」を分けて見ることも、規模を正確に理解するうえで大切だ。

雪がない季節に、山をどう動かすか
スキー場の事業計画を難しくするのは、売上が冬に偏り、天候によって営業日数が変わることだ。冬の運営を磨くことは重要だが、ほかの季節に同じ山をどう使うかを考えると、年間を通した働き方や地域での取引も変わってくる。
その具体例として、同社が挙げるのがびわこ箱館山。冬のスキー事業に加えて景観や地形を生かしたグリーンシーズン事業を育て、同社の実績紹介によれば、夏季の来場者数は冬季を上回り、通年黒字化を達成したという。数字の詳細な推移は公開されていないため、この成果は同社の説明として受け止めたい。一方で、「雪のある山を、雪がない時期に別の客層が訪れる場所へ変えた」という方向性は明確だ。
グリーン事業は、単に夏にイベントを足すことではない。人を雇い続ける期間、地元事業者から仕入れる回数、設備を稼働させる月数を増やせるかが重要になる。マックアースは、冬はスキー場、夏はキャンプ場、あるいは冬はスキー場、夏はゴルフ場で働く例を公式サイトで紹介している。雪山の未来を考える際、年間の雇用は見逃せない指標だ。

自治体と組むことは、公共性を引き受けること
同社が関わる施設には、自治体の指定管理による運営も多い。公式の連携事例には、ちくさ高原スキー場(2012年~)、おじろスキー場の一部(2013年~)、氷ノ山国際スキー場(2013年~)、峰山高原リゾート ホワイトピーク(2017年~)などが並ぶ。
指定管理は、来場者数を増やすことだけが仕事ではない。地域の人が使える場所であること、安全を守ること、施設の将来を自治体と話し合うことが求められる。採算と公共性の間には難しい判断もある。その中で、営業を継続し、地域に人と仕事が残る運営を探ることが、民間事業者が担える役割だ。
会社が掲げる「持続可能な中山間地域の創造」を測るなら、リフト券売上のほかにも目を向けたい。地元への発注、年間の雇用日数、教育旅行の受入れ、周辺宿泊への送客、施設を使う地域住民の数。ゲレンデの外に残る価値をどう確かめるかが、次の段階の議論になる。

雪山の未来をつくるのは、次に来る人でもある
マックアースの歩みは、2008年の法人設立だけでは始まらない。会社沿革は、1961年のハチ高原食堂白樺荘の開業、1968年の野外教育事業開始を起点としている。現在も体験教育を事業の柱に置き、公式サイトでは100以上のプログラム、年間約600団体の受入れを紹介する。
教育事業は「将来のスキーヤーを増やす施策」とだけ見れば狭すぎる。山に来て、雪や自然を体験し、仲間と時間を過ごす。その経験そのものを支える仕事だ。宿泊、食、指導、輸送など地域の仕事ともつながる。スキー場を単独の遊技施設ではなく、人を迎え、育てる地域の基盤として捉え直す視点がここにある。

SNOW MAKING編集部が考える、再生を読む5つの指標
- 冬の営業日数と、その変動への備え
- 冬以外の来場者数と売上の構成
- 働く人の年間雇用日数と育成
- 地域事業者への発注・宿泊への波及
- 設備更新を続けるための投資余力
これは同社の公表済み実績値ではなく、スキー場の再生を評価するために編集部が提示する観点です。
「スキー場を守る」の先へ
マックアースの取り組みを、施設数だけで評価するのはもったいない。再生を事業にした2008年。既存のホテルと高原に冬の使い道を加えた2017年。規模の異なる山々を運営しながら、雪のない季節、地域の仕事、体験教育までつなぐ現在。その積み重ねにこそ、同社がスキー産業へ投げかける問いがある。
次の冬も、そこで滑れるか。その先の春にも、その山で働き、訪れる理由があるか。
雪山の価値を残すには、雪のある日の景色だけでなく、山が一年を通じて動く仕組みが要る。マックアースの歩みは、それを一つひとつ実装しようとする挑戦として読むことができる。

