夕方、滑走を終えた人が山から戻ってくる。ところが街は静かになるどころか、ここからもう一度にぎわい始める。通りにはステージが組まれ、Team USAのユニフォームが並び、スキーをしない人まで音楽を目当てに集まってくる。ユタ州Park Cityで見たのは、「ゲレンデ」と「観光地」を別々に考えない街の姿だった。
リフト、メインストリート、飲食、買い物、スポーツ文化、イベントが、一日の体験として切れ目なくつながっている。本稿では、SNOW MAKING編集部が現地で撮影した記録を起点に、日本のスキー場と地域が一緒に伸びるためのヒントを読み解く。

「山へ行く街」ではなく、「山と一体になった街」
Park City Mountainは、公式情報で滑走可能面積7,300エーカーを掲げる全米最大級のスキーリゾートだ。しかし、現地で最も印象に残ったのは数字ではなかった。メインストリートのすぐそばから、その名もTown Liftが山へ延びている。街を歩き、リフトに乗り、滑って戻り、そのまま食事や買い物へ向かう。この導線そのものがリゾートの商品になっている。

日本にも温泉街とスキー場が近い地域は多い。けれど「近い」だけでは、人の流れは自然にはつながらない。歩きやすさ、案内、営業時間、荷物の預かり、夜の交通、街側の店舗との連携まで設計して、初めてゲストは山と街をひとつの体験として認識する。
夕方から人が増える――ライブがつくる「もう一泊」の理由
編集部が訪れた日、メインストリートの一部では車道を閉じてライブの準備が進んでいた。夕暮れになると、昼間とは別の場所のように人が集まり始めた。話を聞くと、スキー目的ではなく、音楽を楽しむためにソルトレイクシティ方面から来た人もいた。


イベントの価値は、その日の入場料だけでは測れない。ライブ前の買い物、飲食、駐車、宿泊、翌朝の朝食まで、街全体に滞在時間と消費を広げる。しかも「毎週末に何かがある」という期待が定着すれば、単発イベントではなく来訪習慣になる。
音楽を聴きたい人、街を歩きたい人、家族と過ごしたい人、スポーツ文化に触れたい人。入口が増えるほど、地域は降雪や滑走日数だけに依存しにくくなる。
Team USAのユニフォームが、スポーツを街の文化に変える
ゲレンデサイドではウインタースポーツ選手と交流できる催しが開かれ、通りにはアメリカ代表チームのユニフォームや関連商品が並んでいた。これは単なる物販ではない。大会で見た選手、国を背負うチーム、開催地の記憶を「自分も参加できる物語」に変える仕掛けだ。

日本の雪国にも、地元出身の選手、歴史ある大会、スクール、クラブ、メーカー、雪上技術など、語るべき資産は多い。ところが、それらが売店やイベント、展示、ツアーとして結びついていないケースは少なくない。地元選手の応援グッズ、歴代大会のアーカイブ、現役選手との交流、子どもの体験会までつなげれば、スポーツは一過性の大会から地域の文化へ変わる。
五輪の「痕跡」より、五輪後の日常が強かった
Park Cityは2002年ソルトレイクシティ冬季オリンピックの舞台のひとつだった。街にはその記憶を伝えるモニュメントがある。しかし現地を歩いた印象は、過去の大会を前面に押し出す観光地というより、その経験を足場に日常のリゾート運営を積み上げている街だった。

現在、Park City Mountainは2034年冬季オリンピックの会場として、スノーボードとフリースタイルスキーのハーフパイプ、スロープスタイルを迎える予定だと発表している。二度目の世界大会を前に注目したいのは、新しい施設の数だけではない。既存の街、交通、商業、地域住民、日常のイベントと大会をどう結び直すかである。
日本でも国際大会や大型イベントを誘致するとき、開催期間中の動員だけが成果ではない。子どもが競技を始める入口、選手が地域に関わり続ける仕組み、施設の通年利用、地域商店への回遊まで残ってこそ、投資は未来の産業基盤になる。
アプレスキーは「おまけ」ではなく、地域経済の本編

滑り終わったら車に乗って帰る。それでは、スキー場に人が集まっても周辺地域へ経済効果が広がりにくい。Park Cityでは、山を下りた先にバーやレストラン、買い物、ライブがあり、「次に何をするか」が見えている。アプレスキーは雰囲気づくりではなく、客単価、滞在時間、宿泊率、地域雇用に関わる経営設計だ。
| 仕掛け | ゲストに生まれる価値 | 地域に広がる効果 |
|---|---|---|
| Town Liftと歩ける街 | 移動の負担が少なく、山と街を回遊できる | 飲食・小売へ自然に人が流れる |
| 夕方からのライブ | 滑らない人も参加でき、夜まで楽しめる | 滞在時間、宿泊、夜間消費が伸びる |
| 選手交流とTeam USA商品 | 観戦から応援・購買へ参加が深まる | スポーツ文化と地域ブランドが蓄積する |
| 五輪レガシーの継続利用 | 歴史と現在を一度に体験できる | 大会後も施設、人材、物語が残る |
日本のスキー場が持ち帰れる5つのヒント
Park Cityをそのまま日本へ移植する必要はない。規模も人口も交通事情も違う。しかし、温泉街、地酒、郷土食、祭り、雪国の暮らし、地元選手といった日本ならではの材料は、むしろ豊富にある。課題は、素材の不足ではなく、山と街を一つの物語として編集できているかどうかだ。

本稿は、SNOW MAKING編集部が2018年に現地で撮影・記録した内容をもとに、2026年9月時点の公式情報を確認して再構成したものです。イベント内容や営業状況は時期により異なります。
参照:Park City Mountain 公式サイト

