リフトが街へ降りてくる――Park Cityに学ぶ、スキー場と地域を一つにする方法

ユタ州Park Cityのメインストリートと街並み 地域・観光

夕方、滑走を終えた人が山から戻ってくる。ところが街は静かになるどころか、ここからもう一度にぎわい始める。通りにはステージが組まれ、Team USAのユニフォームが並び、スキーをしない人まで音楽を目当てに集まってくる。ユタ州Park Cityで見たのは、「ゲレンデ」と「観光地」を別々に考えない街の姿だった。

Park Cityの強さは、巨大なスキー場であることだけではない。
リフト、メインストリート、飲食、買い物、スポーツ文化、イベントが、一日の体験として切れ目なくつながっている。本稿では、SNOW MAKING編集部が現地で撮影した記録を起点に、日本のスキー場と地域が一緒に伸びるためのヒントを読み解く。
Park Cityのメインストリートに並ぶ店舗
歴史ある建物と店舗が連なるPark Cityのメインストリート。山へ行く前も、滑った後も、滞在の目的が続く。

「山へ行く街」ではなく、「山と一体になった街」

Park City Mountainは、公式情報で滑走可能面積7,300エーカーを掲げる全米最大級のスキーリゾートだ。しかし、現地で最も印象に残ったのは数字ではなかった。メインストリートのすぐそばから、その名もTown Liftが山へ延びている。街を歩き、リフトに乗り、滑って戻り、そのまま食事や買い物へ向かう。この導線そのものがリゾートの商品になっている。

7,300エーカーの滑走可能面積
Town Lift街とゲレンデを直結
2002冬季五輪の開催地
2034再び世界を迎える予定
Park Cityの街中から山へ延びるTown Lift
メインストリート近くから山へアクセスできるTown Lift。インフラが街と雪山の距離を縮めている。

日本にも温泉街とスキー場が近い地域は多い。けれど「近い」だけでは、人の流れは自然にはつながらない。歩きやすさ、案内、営業時間、荷物の預かり、夜の交通、街側の店舗との連携まで設計して、初めてゲストは山と街をひとつの体験として認識する。

リフトは人を山へ運ぶ設備であると同時に、街へ消費を運ぶ装置にもなる。

夕方から人が増える――ライブがつくる「もう一泊」の理由

編集部が訪れた日、メインストリートの一部では車道を閉じてライブの準備が進んでいた。夕暮れになると、昼間とは別の場所のように人が集まり始めた。話を聞くと、スキー目的ではなく、音楽を楽しむためにソルトレイクシティ方面から来た人もいた。

Park Cityのメインストリートで進むライブイベントの設営
通りを会場に変えるライブの設営。イベントが店舗、飲食、宿泊へ人の流れを生み出す。
ライブイベントに集まるPark Cityの来訪者
夕方から増えていく来訪者。滑走を終えた人だけでなく、音楽を目的に街へ来る人もいる。

イベントの価値は、その日の入場料だけでは測れない。ライブ前の買い物、飲食、駐車、宿泊、翌朝の朝食まで、街全体に滞在時間と消費を広げる。しかも「毎週末に何かがある」という期待が定着すれば、単発イベントではなく来訪習慣になる。

集客の主語を「スキーヤー」だけにしない。
音楽を聴きたい人、街を歩きたい人、家族と過ごしたい人、スポーツ文化に触れたい人。入口が増えるほど、地域は降雪や滑走日数だけに依存しにくくなる。

Team USAのユニフォームが、スポーツを街の文化に変える

ゲレンデサイドではウインタースポーツ選手と交流できる催しが開かれ、通りにはアメリカ代表チームのユニフォームや関連商品が並んでいた。これは単なる物販ではない。大会で見た選手、国を背負うチーム、開催地の記憶を「自分も参加できる物語」に変える仕掛けだ。

Park Cityの通りで販売されるTeam USAのユニフォーム
街なかで販売されていたTeam USA関連ウェア。スポーツの物語を、日常で身につけられる商品へ変えている。

日本の雪国にも、地元出身の選手、歴史ある大会、スクール、クラブ、メーカー、雪上技術など、語るべき資産は多い。ところが、それらが売店やイベント、展示、ツアーとして結びついていないケースは少なくない。地元選手の応援グッズ、歴代大会のアーカイブ、現役選手との交流、子どもの体験会までつなげれば、スポーツは一過性の大会から地域の文化へ変わる。

五輪の「痕跡」より、五輪後の日常が強かった

Park Cityは2002年ソルトレイクシティ冬季オリンピックの舞台のひとつだった。街にはその記憶を伝えるモニュメントがある。しかし現地を歩いた印象は、過去の大会を前面に押し出す観光地というより、その経験を足場に日常のリゾート運営を積み上げている街だった。

Park Cityに残る2002年冬季オリンピックのモニュメント
2002年大会の記憶を残すモニュメント。レガシーは記念物だけでなく、その後も使われ続ける街と施設に宿る。

現在、Park City Mountainは2034年冬季オリンピックの会場として、スノーボードとフリースタイルスキーのハーフパイプ、スロープスタイルを迎える予定だと発表している。二度目の世界大会を前に注目したいのは、新しい施設の数だけではない。既存の街、交通、商業、地域住民、日常のイベントと大会をどう結び直すかである。

日本でも国際大会や大型イベントを誘致するとき、開催期間中の動員だけが成果ではない。子どもが競技を始める入口、選手が地域に関わり続ける仕組み、施設の通年利用、地域商店への回遊まで残ってこそ、投資は未来の産業基盤になる。

アプレスキーは「おまけ」ではなく、地域経済の本編

Park Cityのゲレンデ下にあるバー
ゲレンデの下にあるバー。滑走後の時間を街で過ごせることが、滞在価値を高める。

滑り終わったら車に乗って帰る。それでは、スキー場に人が集まっても周辺地域へ経済効果が広がりにくい。Park Cityでは、山を下りた先にバーやレストラン、買い物、ライブがあり、「次に何をするか」が見えている。アプレスキーは雰囲気づくりではなく、客単価、滞在時間、宿泊率、地域雇用に関わる経営設計だ。

仕掛け ゲストに生まれる価値 地域に広がる効果
Town Liftと歩ける街 移動の負担が少なく、山と街を回遊できる 飲食・小売へ自然に人が流れる
夕方からのライブ 滑らない人も参加でき、夜まで楽しめる 滞在時間、宿泊、夜間消費が伸びる
選手交流とTeam USA商品 観戦から応援・購買へ参加が深まる スポーツ文化と地域ブランドが蓄積する
五輪レガシーの継続利用 歴史と現在を一度に体験できる 大会後も施設、人材、物語が残る

日本のスキー場が持ち帰れる5つのヒント

1. 山と街を一本の導線にする無料シャトル、ナイトバス、手荷物預かり、共通決済、街歩きマップを別々にせず、ひとつの体験として設計する。
2. 定例イベントを育てる一度だけの大型イベントより、「毎週この時間に行けば何かある」という習慣をつくる。
3. 滑らない来訪理由を増やす音楽、食、買い物、文化、観戦、子どもの体験など、雪上以外の入口を意識的に持つ。
4. 選手と大会を地域資産にする地域ゆかりの選手や大会の物語を、商品、展示、交流、教育へつなげる。
5. 商店を“周辺”にしないスキー場だけで完結させず、宿、飲食店、小売、交通を商品づくりの当事者にする。

Park Cityをそのまま日本へ移植する必要はない。規模も人口も交通事情も違う。しかし、温泉街、地酒、郷土食、祭り、雪国の暮らし、地元選手といった日本ならではの材料は、むしろ豊富にある。課題は、素材の不足ではなく、山と街を一つの物語として編集できているかどうかだ。

坂の上から見たPark Cityの街並み
坂の上から見るPark City。ゲレンデ、通り、店、人の動きが近い距離に重なっている。
スキーリゾートの本当の強さは、滑らない時間にも人を惹きつけられること。雪のある数時間だけでなく、朝から夜まで、そして一年を通して「ここへ来る理由」を地域でつくる。Park Cityの街に降りてくるリフトは、日本のスキー産業にも、山と地域をつなぎ直す発想の大切さを教えてくれる。

取材・情報について
本稿は、SNOW MAKING編集部が2018年に現地で撮影・記録した内容をもとに、2026年9月時点の公式情報を確認して再構成したものです。イベント内容や営業状況は時期により異なります。
参照:Park City Mountain 公式サイト
SNOW MAKING編集部

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EDITORIAL TEAM

SNOW MAKING編集部

SNOW MAKING編集部は、スキー場経営、雪づくり、索道・設備、人材、地域観光など、日本のスキー産業を支える現場の挑戦と技術を取材・編集しています。利用者と産業の双方に役立つ、正確で読みやすい情報発信を大切にしています。

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