午前7時。リフト始業点検の無線が入り、パトロールがコースへ向かい、レンタルでは最初のお客さまを迎える準備が始まります。スキー場の朝は、いくつもの仕事が同時に動き出すところから始まります。だからこそ、一人が欠けただけでも、その影響は別の持ち場へ少しずつ広がっていきます。
リフト係、パトロール、圧雪、レンタル、飲食、スクール、除雪——異なる専門性を持つ人たちが、同じ「安全で楽しい一日」に向かって力を合わせる。そこには雪山ならではの難しさと、ここでしか味わえない達成感があります。今回は、人手不足を人数の問題だけにせず、働く人が過ごす一日と冬の暮らしから一緒に考えてみます。
あなたならどう考えますか?
自分が初めて雪国で働くなら、求人票に何が書いてあると安心できるでしょう?
採用の悩みに、すべてのスキー場で通用する一つの正解はありません。ただ、各地の現場で生まれている工夫を並べてみると、「働き続けたい」と思える職場に共通する輪郭が見えてきます。編集部も、現場の皆さんの声を集めながら、このテーマを継続して追いかけていきます。
スキー場の人手不足は、単に応募者が少ない問題ではありません。短い繁忙期、山間部への移動、住居、早朝・夜間勤務、天候で変わるシフト、索道や圧雪など専門技能の継承が重なっています。採用広告を増やすだけでは、入社後の早期離職や現場の疲弊は解消しません。

採用を難しくする構造
季節雇用は働ける期間が限られ、求職者は生活費、次の仕事、交通手段まで同時に考えます。給与額だけでなく、寮費、個室の有無、Wi-Fi、食事、買い物、送迎、休日の過ごし方が実質的な労働条件です。募集要項で仕事の魅力だけを伝え、生活情報を曖昧にするとミスマッチが起きます。
定着を阻むのは「初日から忙しい」現場
開業直前に新人が集中し、十分な説明がないまま現場へ入ると、不安と事故リスクが高まります。業務手順、緊急連絡、接客基準、悪天候時の判断を短い動画やチェックリストにし、初週の教育担当を決めておくことが重要です。新人が質問できる余白もシフトの一部です。

採用改善は募集前から始まる
- 必要人数を業務量から算出する:昨年踏襲ではなく、曜日・時間帯・部署別に見る
- 仕事と生活を具体的に示す:一日の流れ、寮、交通、装備、費用、残業の扱いまで公開する
- 選考を速くする:季節人材は複数の就業先を同時に比較している
- 再雇用を最優先する:経験者への早期オファーと役割・待遇の段階設計を行う
定着を生む四つの土台
1. 生活環境
寮の清潔さ、プライバシー、通勤送迎、食事、買い物手段は離職に直結します。管理者が定期的に寮を確認し、相談窓口を明示します。
求人票は、仕事の案内であると同時に「冬の暮らし」の案内でもあります。
勤務時間だけでなく、住む・食べる・移動するまで具体的に伝えることが、安心して応募できる入口になります。
2. 公平なシフト
天候で勤務が変わる場合の賃金ルール、希望休、連続勤務、繁忙部署への応援条件を事前に共有します。「いつ呼ばれるか分からない」状態を減らすだけでも安心感は上がります。
3. 技能の見える化
索道、パトロール、圧雪、降雪、レンタル整備などは経験依存になりやすい仕事です。できる作業を段階表にし、習得と役割、手当を結びつけると、成長と評価が見えます。
4. 現場責任者の支援
定着率は直属の上司に左右されます。責任者にも面談方法、注意の伝え方、多文化対応、ハラスメント防止の教育が必要です。退職者の理由は個人の問題にせず、部署別に集計します。
通年雇用と地域連携
業界団体は、グリーンシーズン活用による通年雇用、外国人材、設備の自動化・省力化を課題として挙げています。夏季事業、施設保守、地域の農業・観光事業者との人材シェアなど、年間で仕事をつなぐ発想が必要です。ただし外国人材の活用では、在留資格、業務範囲、言語、安全教育、生活支援を適法かつ丁寧に設計します。
経営が毎月一緒に見てみたい指標
- 応募から採用までの日数と辞退率
- 部署別の充足率、欠勤率、残業時間
- 初週・1か月・シーズン終了時の定着率
- 再雇用率と技能保有者数
- 寮・教育・送迎を含む一人当たり採用コスト
採用の前に始まっている“暮らし”の設計
勤務地までの交通、寮の個室や通信環境、買い物、食事、休日の移動は、仕事と同じくらい大切です。短期スタッフにとっては、知らない土地で生活を立ち上げること自体が大仕事。地域の宿や交通、商店と協力し、暮らしの不安を減らすことが採用力につながる例もあります。
ベテランの知恵をチームの財産に
雪面の変化、機械音の違い、お客さまの動きなど、経験で身につく判断はたくさんあります。写真付きの手順、短い動画、朝礼での事例共有、振り返りの時間を組み合わせると、技能が伝わりやすくなります。教える人だけに負担を集中させず、質問しやすい空気をつくることも定着を支えます。

最初の7日間を、どう設計する?
入社初日の説明だけで、山の仕事をすべて理解するのは難しいものです。そこで、受け入れの一週間を小さく区切って考えてみます。
- 勤務前:持ち物、寮、交通、初日の流れを写真付きで共有
- 1日目:自分の持ち場だけでなく、スキー場全体の動きを見てもらう
- 2〜3日目:先輩と一緒に実務へ。質問する相手を一人に決めておく
- 7日目:困りごとと「できるようになったこと」を短く振り返る
問いかけ:皆さんの職場では、新しく来た人が「誰に聞けばいいか」を迷わず言えるでしょうか?
編集部と一緒に考えたいこと
人手不足には全国共通の難しさがありますが、各地には住まいの改善、複数施設での通年雇用、地域ぐるみの採用など新しい動きもあります。働く人が「また来たい」と思える職場は、お客さまにも温かさが伝わるはずです。現場の小さな工夫を持ち寄り、雪山で働く魅力を一緒に育てていきたいテーマです。
「また来たい」と思える職場へ
人手不足への対策は、求人媒体の選定より前に、働き続けられる仕事と生活をつくることです。採用、受け入れ、教育、評価、再雇用を一つの流れとして設計し、毎シーズン改善する。人材をコストではなく、営業の安全と品質を支える基盤として扱う経営が求められます。
参考:日本スノースポーツ&リゾーツ協議会「令和7年度アクションプラン」、観光庁スノーリゾート検討委員会とりまとめ。雇用・在留資格は最新制度と専門家の確認が必要です。資料は2026年9月時点。

