巨大な圧雪車の周囲で、技術者と経営者が真剣な表情で話し込む。少し歩けば人工降雪機、その先には索道のケーブルや搬器設備、雪上モビリティ、山岳施設の運営を支えるシステムが並んでいる。
2022年、フランス・グルノーブルで開催された国際山岳産業展「Mountain Planet」を訪れたとき、最も強く感じたのは、スキー場が決して「雪の上だけの商売」ではないということだった。
スキー場は、交通、エネルギー、土木、観光、安全、データ、人材、地域経済が交わる総合産業である。
あれから4年。エネルギー価格、人手不足、気候の変化、施設の老朽化、利用者ニーズの多様化など、日本のスキー産業を取り巻く課題はさらに輪郭を増した。だからこそ今、2022年の会場で見た光景を「過去の展示会レポート」としてではなく、これからの経営と現場を考える材料として読み直したい。
そもそもMountain Planetとは何か
Mountain Planetは、フランス・グルノーブルのAlpexpoで開催される山岳産業の国際見本市だ。主催者によれば、1974年から隔年で開催され、冬と夏の山岳事業者だけでなく、都市・地域開発に関わる企業や行政、専門家までを結ぶ場となっている。
対象分野は索道、人工降雪、圧雪、除雪、安全・救助、情報・サイン、エネルギー、水・廃棄物、観光、交通、まちづくり、環境、計測・監視システムなど幅広い。公式サイトが現在掲げる領域を見ても、Mountain Planetが単なる「スキー用品の展示会」ではないことが分かる。
2026年開催時には、公式発表で約6万平方メートルの会場に2万1,000人超の専門来場者、480社超の出展者、65か国が集まった。規模の大きさ以上に重要なのは、現場の機械と経営判断、環境課題と地域づくりが、同じ会場で議論されている点だ。
会場で見えたのは「設備」ではなく、運営の選択肢だった
展示会場を歩くと、目に入るのは大型機械の迫力である。しかし、本質はスペック競争だけではない。
人工降雪機なら、どの気象条件で、どれだけ効率良く雪をつくり、いつ営業を始められるのか。圧雪車なら、燃料、作業時間、オペレーターの負担、雪面品質をどう両立するのか。索道設備なら、安全性と輸送力だけでなく、点検、省力化、夏季利用までどう設計するのか。
一台の機械の価値は、導入価格ではなく、営業日数、顧客体験、労働環境、エネルギー、売上への効果を含めて決まる。

人工降雪は、雪不足対策ではなく「営業の確度」を高める技術へ
人工降雪は、ともすれば「天然雪が少ないときの代替手段」と受け止められがちだ。しかし経営の視点では、役割はもっと広い。
オープン日を計画しやすくする。主要コースの基礎を早期に固める。薄くなりやすい場所へ必要な量を配分する。大会やスクール、旅行商品の受け入れ条件を整える。これは「雪が降るかどうか」に委ねていた営業を、少しずつ計画可能なものへ変える取り組みだ。
もちろん、水、電力、気温、地形、貯水設備、地域との合意形成を無視した導入は成立しない。必要なのは降雪機単体の購入ではなく、気象データ、配管、ポンプ、貯水、圧雪、オペレーションを一つのシステムとして考えることだ。

圧雪車の運転席は、山のデータセンターになっていく
圧雪は、来場者からは見えにくい仕事だ。多くの作業が営業終了後から夜間、早朝にかけて行われる。だが、翌朝の滑走感、安全性、コースの持続性は、この仕事に大きく左右される。
Mountain Planet 2022では、圧雪車そのものの大型化や力強さと同時に、運転席の情報化が印象に残った。画面には作業状況が集約され、機械の操作だけでなく、雪面を読み、作業を記録し、判断を支える空間へと変わりつつあった。
経験豊富なオペレーターの感覚は、これからも不可欠だ。ただし、経験を個人の中だけに閉じ込めれば、人が替わるたびに現場は振り出しへ戻る。データで補助し、共有し、次世代へ渡すことができれば、熟練者の価値は薄れるのではなく、組織全体へ広がる。


索道は「山へ運ぶ装置」から、地域の移動インフラへ
ロープ、滑車、搬器、支柱。索道は巨大な装置でありながら、その安全は一つひとつの部品、点検、運行判断の積み重ねで成立している。
会場で実物に近い部材を見ると、普段乗客として何気なく利用しているリフトやゴンドラが、きわめて高度な輸送システムであることを実感する。さらに、夏季の自転車搬送、展望利用、山麓と山頂施設の接続まで考えれば、索道は冬だけの設備ではない。
日本でも今後、更新時期を迎える施設は増える。そこで問われるのは、古くなった設備を同じ形で置き換えるのか、それとも冬季輸送、夏季観光、地域交通、災害対応まで含めて次の役割を設計するのか、という選択だ。


雪山産業の脱炭素は「我慢」ではなく、無駄を減らす経営改革
環境対応という言葉は、コスト増や制約として語られることがある。しかし、燃料使用量の把握、圧雪ルートの最適化、不要運転の削減、設備効率の改善は、そのまま経営改善にもつながる。
Mountain Planetは2022年に「European Green Capital Event」のラベルを取得したと公式に説明している。現在の同展も、カーボンを意識した技術、水資源、廃棄物、生物多様性、景観などを産業課題として扱う。
ここで大切なのは、「環境に良い機械へ交換すれば終わり」としないことだ。どのコースをいつ造成するのか。降雪と圧雪をどう連携させるのか。索道をどの時間帯にどの輸送力で動かすのか。来場者の移動を自家用車だけに依存しない方法はあるか。
脱炭素は設備のラベルではなく、山全体の運営を見直すプロセスである。
冬だけで投資を回収しない——モビリティが広げる山の時間
会場には、雪上を走る小型モビリティや自転車関連の展示もあった。こうした製品は単なる「新しい遊び」に見えるが、経営側から見れば、冬の来場目的を増やし、夏季の索道やコースを活用し、異なる客層と山をつなぐ手段になり得る。
すべてのスキー場が大型アクティビティへ投資する必要はない。重要なのは、自らの地域資源と来場者像に合わせて、小さく試し、利用率、滞在時間、客単価、再来訪につながったかを確かめることだ。

日本のスキー場が持ち帰れる5つの視点
1. 設備投資を「機械の購入」で終わらせない
営業日数、作業時間、燃料・電力、スタッフ負担、来場者満足など、導入前に成果の見方を決める。数字を置くことで、設備が経営にどう貢献したかを検証できる。
2. 降雪・圧雪・索道を別部門で閉じない
雪をつくる、整える、運ぶという工程はつながっている。部門横断で情報を共有すれば、限られた雪と人員、エネルギーをより効果的に使える。
3. 熟練者の判断を、組織の資産にする
データは熟練者に代わるものではない。判断の理由を記録し、若手へ伝え、改善を重ねるための共通言語として使う。
4. 冬季営業と地域観光を一枚の計画にする
宿泊、飲食、交通、温泉、文化、夏季アクティビティと連携し、スキー場単体ではなく地域全体で滞在価値をつくる。山の設備が地域の収益へどう波及するかまで見る。
5. 小規模な実証から始める
大規模更新だけが革新ではない。一本のコース、一台の機械、一つの運用ルールから試し、成果を測り、次の投資へつなげる。小さな改善を積み上げる力が、変化の速い時代には強い。
2030年代のスキー場は、何を売る場所になるのか
未来のスキー場が売るものは、リフト券だけではないだろう。
滑れる確度、安全な移動、質の高い雪面、地域で過ごす時間、スタッフの専門性、自然と共存する運営——それらを束ねた「山の体験」そのものが価値になる。
雪の量や天候を完全に制御することはできない。だからこそ、制御できる領域を増やす。データを集め、設備をつなぎ、人材を育て、地域と協力し、来場者へ誠実に伝える。技術は未来を自動的に連れてくるのではなく、現場と経営が選択するための道具なのだ。

4年前の会場から、いま日本へ持ち帰るべきもの
Mountain Planet 2022で見たのは、完成した未来ではなかった。人工降雪、圧雪、索道、エネルギー、モビリティ、データという個別の技術が、山の課題に応えようとする途中の姿だった。
そして4年後のいま、それらを一つの経営設計として結び直す必要性は、さらに高まっている。
日本のスキー産業に必要なのは、欧州の設備をそのまま輸入することではない。技術を「何のために使うか」を、現場、経営、地域が一緒に考える文化を育てることだ。
雪を待つ産業から、雪山の価値を設計する産業へ。Mountain Planetの会場に並んでいたのは、その変化を進めるための機械であり、データであり、世界中の人々の知恵だった。
取材・撮影:SNOW MAKING編集部
取材地:Mountain Planet 2022(フランス・グルノーブル)
参考:
・Mountain Planet 公式サイト
・Sectors Represented
・Mountain Planet CSR Policy

