CUSTOMER JOURNEY
一度来てくれたお客さまが、帰り道で「次はいつ来よう?」と話している。
その瞬間までが、スキー場の集客です。
朝8時20分。初めて訪れたスキー場の駐車場で、ある家族が車を降りました。
「チケット売り場はどっち?」「レンタルは先?」「子どものブーツは、どこで合わせるんだろう」——雪山を前に気持ちは高まる一方、分からないことも次々に出てきます。
けれど、駐車場の案内が見やすく、レンタル受付ではスタッフが子どもの目線に合わせて説明してくれ、初級コースへの行き方も迷いませんでした。午後、初めて一人で止まれた子どもが笑い、帰りの車内では「次はリフトで上まで行きたい」と話しています。
この家族をスキー場へ連れてきたのは広告かもしれません。でも、もう一度来たいと思わせたのは、その日一日をつくった現場全体です。
※冒頭の家族は、スキー場で起こり得る複数の場面をもとに構成した架空の来場者です。

集客のゴールは、入場者数だけでは見えない
スキー場の集客というと、広告、SNS、早割、イベントなど「どう来てもらうか」に目が向きがちです。もちろん、新しいお客さまとの出会いは欠かせません。ただ、雪山へ行くには、移動時間、交通費、道具の準備、天候への心配など、街のレジャーよりも多くのハードルがあります。
だからこそ、一度足を運んでくれた方とのご縁はとても大切です。初回来場を一度の売上で終わらせず、「次は友人を連れて行こう」「今度は家族で泊まりたい」と思ってもらえるか。その積み重ねが、数年後のスキー場と地域のにぎわいをつくります。
ここで小さなクイズです
初めてのお客さまが「また来たい」と感じるのは、次のどの瞬間でしょうか?
- 広告で絶景を見たとき
- リフト券を安く買えたとき
- スタッフに親切にしてもらったとき
- 迷わず一日を楽しめたとき
答えは、どれか一つではありません。期待をつくる情報、納得できる価格、人との温かな接点、分かりやすい導線。それらが途切れずにつながったとき、一日の体験全体が「また来たい」に変わります。
お客さまの一日は、ゲレンデに着く前から始まっている
集客を一日の流れで見てみると、改善のヒントが見つけやすくなります。お客さまの気持ちは、次の4つの場面を旅しています。
行く前
道路、駐車場、服装、レンタル、初心者向け情報。楽しみと不安が同居する時間。
到着直後
どこへ行けばいいか。最初の30分の分かりやすさが、その日の気分を左右する。
滞在中
滑走、食事、休憩、人との会話。小さな成功体験が思い出に変わる。
帰った後
写真を見返し、誰かに話し、次の雪予報を見る。再訪の種が育つ時間。
「最初の30分」を整えると、山で過ごす時間が変わる
初めての方にとって、到着直後は想像以上に忙しいものです。駐車、着替え、チケット購入、レンタル、トイレ、スクール受付。慣れた人には当たり前の順序も、初来場者には分かりません。
経営側から見れば、看板、Web案内、スタッフ配置、発券システム、レンタル動線と、それぞれ別の業務です。しかしお客さまから見れば、すべてが「このスキー場は過ごしやすいか」という一つの体験です。

割引より先に、「次は何をしたいか」を残す
再来場を促す方法として、次回割引やクーポンは分かりやすい施策です。ただし、価格だけで選ばれた関係は、もっと安い選択肢が現れれば揺らぎます。
強いリピーターを育てるのは、帰るときに残る「次の目的」です。
- 今日は初級コースだけだったから、次は山頂から滑ってみたい
- 子どもがもう一度、同じスクールの先生に会いたがっている
- 食べられなかった名物メニューを次回こそ注文したい
- 春の景色、ナイター、パウダーの日も体験してみたい
- 次は友人や家族にも、この場所を見せたい
こうした「未完の楽しみ」があると、再訪は値引きへの反応ではなく、自分で選んだ次の物語になります。スタッフのひと言、場内放送、コース案内、レストランの掲示、帰宅後のメールやSNSも、その物語をそっとつなぐ役割を果たせます。
リピーターは、同じ人の繰り返しではない
ひとくくりに「再来場者」と呼んでも、次に求めるものはさまざまです。
大切なのは、全員に同じ案内を大量に届けることではありません。初めてレンタルを利用した家族には次のステップを、滑走日数の多い方には積雪やコース情報を。お客さまが受け取りたいタイミングと内容を考えることが、押しつけにならない関係づくりにつながります。
お客さまへの質問
あなたが、もう一度行きたくなったスキー場には何がありましたか?
最高の雪、忘れられない景色、分かりやすい案内、名前を覚えてくれたスタッフ、温かい食事——その答えの中に、次の集客施策のヒントがあります。
現場の全部がマーケティングになる
広告担当者だけが集客を担っているわけではありません。駐車場で車を誘導する人、ゲレンデを整える人、リフトを安全に運行する人、レンタルのブーツを合わせる人、食事をつくる人、清掃する人。お客さまが「また来たい」と判断するとき、こうした仕事はすべて一つにつながっています。
これは、現場にさらに負担を増やすという話ではありません。むしろ、お客さまが繰り返し迷う場所や、同じ質問が集中する場所をチームで共有し、案内や仕組みで解決する。そうすれば接客の余白が生まれ、人だからこそできるひと言に力を注げます。
明日から見直せる「再訪への8つの接点」
- 公式サイトの情報は初めての人にも分かるか——道路、駐車場、服装、料金、レンタルの順序まで具体的に。
- 到着後の最初の行き先が一目で分かるか——看板だけでなく、予約完了画面やメールでも案内する。
- 価格に含まれる価値が伝わっているか——安全、整備、運行、サービスの背景も丁寧に。
- 初心者が小さな成功を持ち帰れるか——滑れた、乗れた、選べたという実感を設計する。
- 困っている人に気づける合図があるか——声をかけやすい雰囲気と配置をつくる。
- その土地ならではの記憶が残るか——食、景色、人、文化をゲレンデ体験とつなぐ。
- 帰宅後に次の楽しみを思い描けるか——別コース、季節、イベント、地域の魅力を提案する。
- 再訪を数字と声の両方で見ているか——再来場率だけでなく、レビュー、問い合わせ、現場の気づきも集める。
数字で追うなら、「人数」の一歩先へ
来場者数や売上はもちろん重要です。一方で、リピーターづくりの兆しは、それだけでは見落とすことがあります。たとえば、再来場者の割合、予約から来場までの離脱、レンタルやスクールの再利用、メールやSNSからチケットページへの動き、紹介で来た人の声などです。
すべてを一度に計測する必要はありません。まずは「初めての方がどこで困ったか」「何がうれしかったか」「次に何をしたいと言ったか」を、現場で拾える形にすること。数字は評価のためだけでなく、チームで良い体験を育てるための共通言語になります。

「また来たい」は、スキー場とお客さまが一緒につくる
冒頭の家族にとって、初来場の日はただのレジャーではありません。子どもが新しいことに挑戦し、家族で同じ景色を見て、雪の楽しさを知った一日です。そしてスキー場側では、その一日のために、降雪、圧雪、安全管理、設備、接客、食事、情報発信など、多くの仕事が動いています。
一般のお客さまがその背景を少し知ると、リフト券の向こうにある仕事や、スタッフのひと言の意味も違って見えるかもしれません。経営側もまた、お客さまの戸惑いや喜びを知ることで、次の改善点を見つけられます。
来てもらう。楽しんでもらう。もう一度会う。
この循環を一つずつ丁寧につくることが、スキー場のファンを増やし、地域の冬を長く支えていくのではないでしょうか。

