自然雪が十分に積もるのを待つのではなく、先に「滑る価値」をつくる。
中国・吉林省のChangBaiShan International Resort(長白山万達国際リゾート)を訪れて最も強く感じたのは、その発想だった。外気は厳しく冷え込み、周囲の森には地面が見える場所もある。それでもゲレンデには均一な雪面が整い、ホテル群を背にした大型キッカーとジブラインが、シーズン序盤から競技者を迎える。
ここは単に規模の大きな中国のスキー場ではない。人工降雪、圧雪、パーク造成、宿泊、移動、デジタル決済までを一つの滞在商品にまとめ、雪の量ではなく「練習できる時間」と「確実に滑れる環境」を売っている。本稿では、編集部の現地撮影記録と2026年9月時点の公開情報をもとに、長白山リゾートの強さを日本のスキー産業の視点から読み解く。
長白山リゾートはどこにあるのか

リゾートがあるのは中国東北部、吉林省白山市撫松県。長白山は中国と北朝鮮の国境をなす山岳地帯として知られるが、スキー場自体は国境線上ではなく、長白山西麓の中国側に位置する。日本から見ると、朝鮮半島の北東部を越えた先にある。
公式サイトによればリゾートの開発面積は約21平方キロメートル。長白山空港からホテルまでは約17キロメートルと近く、航空移動の後に長い陸路を重ねず、雪上へ接続できる設計だ。

寒い。しかし、自然雪だけには頼らない
長白山エリアの冬は非常に寒い。訪問時には氷点下20度前後まで下がる日もあり、ダイヤモンドダストやサンピラーが見られるほどだった。一方で、日本海側の豪雪地帯のように連日の降雪で斜面が埋まっていく環境とは異なる。空気は乾き、晴天率が高く、自然雪の量やタイミングだけでは商品品質を組み立てにくい。
そこで主役になるのが人工降雪と圧雪だ。低温は造雪には有利であり、必要な場所へ必要な量を計画的に配置できる。自然降雪を「待つ」のではなく、気温、水、電力、機械、人員を組み合わせて営業可能な雪面を「生産する」。長白山では人工雪が補助設備ではなく、営業日数と競技品質を守る基幹インフラになっている。

もちろん人工降雪には、水資源、電力、設備投資、保守、オペレーターの技能が必要だ。雪をつくれば終わりではない。気温と湿度を読み、降雪機を動かし、雪山を移動させ、圧雪車で均一に仕上げる。とりわけキッカーやハーフパイプは、雪量だけでなく造形精度と日々の修正が品質を決める。

最大の驚きは「早い時期に、ここまで完成している」こと
長白山の象徴が、Tiger Ridge Terrain Park(タイガーリッジ・テレインパーク)だ。公式サイトは、国際規格のハーフパイプ、ビッグエア、スロープスタイル、クロスカントリー設備を備えると案内している。北京2022冬季五輪で金メダルを獲得した蘇翊鳴(スー・イーミン)選手が、ここを長期トレーニング拠点としてきたことも公式に紹介されている。
ただし、価値は「大きなキッカーがある」だけではない。訪問時に目を引いたのは、シーズンのかなり早い段階からメインパークと中規模パークが形になり、海外の代表クラスを含む競技者が反復練習に使える状態だったことだ。

競技チームが求めるのは、必ずしも観光客向けの豊富なコース数ではない。決められた時期に、必要なサイズと形状のアイテムがあり、同じ条件で何度も滑れ、休養と食事と移動が短い導線で完結することだ。つまり長白山は、一般客向けのリフト券販売に加えて、競技者の時間を買うBtoB型の需要をつくっている。
競技拠点は直接的な滞在売上だけでなく、造成・整備ノウハウの蓄積、若手選手の育成、ブランド発信、一般客への憧れにも波及する。大会を一度開催するより、毎冬そこへ戻る理由をつくる方が、産業基盤としては強い。
スキー場ではなく「雪上都市」をつくる
ゲレンデの下には複数の大型ホテル、飲食、商業施設、温浴・レジャー機能が集まり、滞在者はリゾート内で一日を完結できる。公式サイトでは30本を超えるコースと複数の宿泊施設を案内し、夏もウォーターパーク、キャンプ、青少年向けプログラムなどを展開している。
これはリフト会社を中心に宿泊や飲食が周囲へ点在する日本の多くのスキーエリアとは、成立過程が違う。長白山は最初から「滑る・泊まる・食べる・遊ぶ」を一体で計画し、滞在時間と消費を囲い込む大型リゾート開発である。

日本が同じ資本規模をそのまま真似する必要はない。しかし、「滑走後にどこへ行き、何にお金を使い、翌朝どうゲレンデへ戻るか」という導線を地域全体で設計する考え方は参考になる。宿、飲食、交通、スクール、レンタルが別々に最適化されているだけでは、来場者の不便も地域からの売上流出も残る。
中国のスキーブームは、数字の上でも次の段階へ
『2024-2025 China Ski Industry White Book』によると、中国国内スキー場の延べ来場者数は2024年5月から2025年4月までに2,605万人となり、前年同期比12.9%増。実人数は1,355万人、営業スキー場は748カ所で、そのうち66カ所が屋内施設とされる。
ここで重要なのは、施設数の多さだけではない。延べ来場者数を実人数で割ると、単純平均は約1.9回。市場にはまだ「一度体験した人を、何度も雪山へ戻す」という大きな伸びしろがある。競技スター、都市部の屋内ゲレンデ、SNS映えするリゾート、家族向け商品、スクールなどが、体験者を継続者へ変える入口になる。
長白山の完成度の高いパークは、その転換を象徴する。初心者を大量に迎えるだけでなく、熱量の高い層へ明確な目的地を提示する。市場が大きくなるほど、すべてのスキー場が同じ商品を売るのではなく、「誰の、どんな一日を最も上手につくれるか」が問われる。
中国特有のアプリ環境も、リゾート体験の一部
中国の旅では、ゲレンデに着く前からデジタル対応が重要になる。配車はDiDi、支払いはAlipayやWeChat Pay、連絡や施設情報はWeChatの公式アカウントやミニプログラムが生活動線に入り込む。
以前は中国本土の銀行口座や電話番号が大きな壁だったが、現在は対象となる海外発行カードをAlipayやWeChat Payへ連携できる仕組みが整備されている。ただし、対応ブランド、本人確認、利用上限、手数料は更新される。渡航前にアプリとカードを設定し、中国語の施設名・住所を保存し、通信手段と現金・カードの予備も用意しておきたい。
この点も、日本のスキー場にとって他人事ではない。訪日客にとっては、予約、交通、決済、レンタル、レッスン、天候情報が母国語と使い慣れた端末でつながるかどうかが、雪質に触れる前の評価になる。ゲレンデの顧客体験は、空港を出る前から始まっている。
日中関係と、スキー市場の可能性は分けて考える
日本と中国の関係は、政治・外交・渡航環境に影響される。短期的な集客予測には慎重さが必要だ。一方、スキー産業の中長期戦略としては、中国の参加人口が増え、初心者の一部が継続者や競技志向へ移る流れを無視できない。
人工雪と造成技術を前提に育った中国の利用者が、次に求めるのは何か。日本の自然雪、深雪、山岳文化、温泉、食、地域の暮らしは、長白山とは競合するだけでなく補完関係にもなり得る。中国国内で裾野が広がるほど、日本へ来る可能性のある経験者層も厚くなる。
同時に、日本側からは降雪・圧雪機器、パーク造成、安全管理、スクール、人材育成、地域運営など、観光客誘致以外の産業接点も考えられる。情勢を楽観視するのではなく、変化を観測し、必要な言語・決済・商品・パートナーシップを準備しておくことが重要だ。
日本のスキー場が学べる5つのこと
1.自然雪ではなく「営業可能日」をつくる
人工降雪は自然雪を否定する設備ではない。オープン日、スクール、大会、団体予約という約束を守るための保険であり、売上を生む生産設備である。
2.早期オープンを、値引きではなく目的商品にする
一部コースだけを安く開けるのではなく、レーサー、パークライダー、スクール、チーム合宿など、早い時期に強い需要を持つ顧客へ明確な価値を売る。
3.競技拠点をBtoB事業として捉える
コース貸切、造成、映像撮影、トレーニング、宿泊、食事、送迎をパッケージ化すれば、一般来場の少ない平日やシーズン序盤にも需要をつくれる。
4.滞在中の移動を短くする
大型開発ができなくても、宿・飲食・レンタル・スクール・交通の予約窓口をまとめることはできる。重要なのは所有の一体化より、利用者から見た体験の一体化だ。
5.デジタル導線を「翻訳」ではなく「設計」する
外国語ページを一枚置くだけでは足りない。検索、予約、決済、当日の案内、緊急連絡まで、来場者が普段使うスマートフォンで迷わず完結できることが競争力になる。
訪れるなら知っておきたいこと
- 防寒:風が弱く晴れていても、氷点下20度前後では顔、指先、足先、スマートフォンの電池が急速に消耗する。予備バッテリーも保温したい。
- 移動:長白山空港からの送迎や配車は、ホテル名・住所の中国語表記を事前に保存する。便や道路事情は季節で変わるため直前確認が必要。
- 決済:Alipay/WeChat Payの本人確認とカード登録を出発前に済ませ、少額の現金など代替手段も用意する。
- 営業情報:コース、パーク、リフト、料金は天候・時期・大会で変動する。必ず公式の最新案内を確認する。
まとめ――雪を待たないことは、市場を待たないこと
長白山リゾートの核心は、巨大なホテルでも、大型キッカーでもない。「いつ、誰に、何を提供するか」を決め、その約束に合わせて雪面と滞在環境を生産する力にある。
日本には、中国が簡単には再現できない自然雪、地形、地域文化がある。しかし、その優位性が来場者の便利さや営業の確実性まで自動的に保証してくれるわけではない。自然の価値に、人工降雪、圧雪、デジタル、交通、宿泊、競技育成をどう重ねるか。長白山の「雪を待たない」姿勢は、気候変動と市場変化に向き合う日本のスキー産業へ、静かだが強い問いを投げかけている。
参考・出典
・Changbai Mountain Wanda International Resort 公式サイト
・2024-2025 China Ski Industry White Book
・Reuters:海外発行カードとAlipayの連携に関する報道
※本稿は編集部の現地撮影・取材記録と、2026年9月22日時点で確認した公開情報をもとに再構成しています。営業内容、料金、交通、決済条件は変更される場合があります。

