圧雪車の電動化、「市場25%成長」で決めていいのか――世界予測を日本の夜の仕事に引き直す

ゲレンデにある赤い圧雪車と整った雪面 スキー場経営

SNOW MAKING EDITORIAL / OPERATIONS & TECHNOLOGY

冒頭写真:SNOW MAKING編集部撮影。一般的な圧雪作業の写真であり、記事で扱う全電動車両の写真ではありません。データ出典:株式会社マーケットリサーチセンター/アットプレス。

夜の圧雪が終わるまで、あと1コース。そこで電池が尽きたら、朝の開放判断はどう変わるだろう。

「全電動の圧雪車市場は2032年に2億6,700万ドル」。市場調査レポートの発表資料には、そんな大きな数字が並ぶ。しかし経営者が知りたいのは、世界市場の勢いそのものではない。自分のスキー場で、どの仕事を、どの車両に任せられるかだ。SNOW MAKING編集部は予測値を起点に、導入の判断を現場の言葉へ引き直した。

まず数字の意味
2025年 5,747万ドル → 2032年 2億6,700万ドル
世界の「全電動スノーグルーマー」の市場規模について、リリースが紹介する予測。年平均成長率は2026〜32年で25.0%と記載。販売実績や日本の導入台数を示す数値ではない。

「25%成長」を、導入の根拠にしてはいけない

株式会社マーケットリサーチセンターがアットプレスで発表したのは、有料の英文市場調査レポートの概要だ。公開リリースから確認できるのは、世界の市場金額の予測と分析対象の説明まで。推計に用いた個別の販売台数や算定方法の詳細は、編集部では確認できていない。したがって、この数字から国内スキー場の何%が導入する、何年で投資回収できる、と結論づけることはできない。

さらに文章には注意点がある。前半では「全電動」を電池に蓄えた電気で駆動する車両と説明する一方、後半では「プラグインハイブリッド型」も種類に含めている。エンジンを併用する車両と、走行中に燃料を使わない車両では、給油、充電、排出、整備の条件が違う。導入前には製品仕様と調査対象の定義を別々に確かめたい。

同じ「電動」の言葉でも

バッテリー式:走行中の排気はゼロ。航続時間と充電設備が重要。
ハイブリッド式:エンジンも使う。燃料、稼働時間、排出の条件が異なる。
水素などの別方式:供給・保守の前提がさらに異なる。
この区分は編集部による整理。個々の車両はメーカー仕様で確認する。

現実の車両は、まず仕事を絞って現れている

技術が机上だけにあるわけではない。PRINOTHはHUSKY E-MOTIONをクロスカントリーや比較的小規模な斜面向けの電動圧雪車として発表し、バッテリー容量208kWh、稼働「最大3時間」を公表した。PistenBully 100 Eもメーカー公表では最大3時間。いずれも公表条件に基づく目安で、急斜面・重い新雪・長い作業夜に同じ時間を保証するものではない。

大型機が一晩かけて担う全域の圧雪を、すぐ同じ仕様の電動機に置き換えられると考えるのは早い。一方で、短いルート、ベースエリア、クロスカントリーコースなど作業時間と帰庫位置を読める仕事から検討する余地はある。導入対象を「車両」から決めず、「担当する仕事」から定める順番だ。

日本のゲレンデなら、まず5つの問いを立てる

01|1台は何時間、どこを走るか
夜間の実稼働、待機、移動、再整備を分けて記録。最大稼働時間のカタログ値より、最も忙しい夜の運行記録が重要。
02|どの斜度・雪質・負荷を受け持つか
急斜面のウインチ作業、重い湿雪、雪を押し上げる作業は消費電力と安全要件が変わる。候補車の仕様と実地試験で確認。
03|充電を何時に、どこで終えるか
車庫の受電容量、充電器、配線工事、停電時の代替車、朝までの残り時間を一つの工程として設計する。
04|環境負荷をどう測るか
走行時の排気ゼロと、使用電力の発電由来を含む温室効果ガス排出は別。電力契約や使用量を含めて比較する。
05|総費用と整備体制はどう変わるか
購入価格だけでなく充電設備、契約電力、保守、電池、残価、予備機、ダウンタイムまで同じ年数で比べる。

リリースは電動車両の低い運用コスト、静粛性、整備の容易さにも触れる。ただし、各スキー場での費用削減を実証した比較表は公開されていない。特に「省人化」も電動化だけで自動的に実現するものではなく、運行計画、位置情報、作業範囲の見える化を別に組み立てる必要がある。

導入の第一歩は、1本のルートで検証すること

まず現有車の稼働記録から、時間と距離が安定した短いルートを一つ選ぶ。次にメーカーへそのルートの斜度・雪質・作業幅・除雪量を伝え、実機の作業時間と充電を確かめる。冬の最も負荷が高い夜も含め、仕上がり、電力量、予備機の出番、オペレーターの感想を記録する。新しい技術を評価するなら、広告の言葉より、この比較のほうが経営の役に立つ。

世界市場の成長予測は「電動化の検討を始める理由」にはなる。しかし投資の答えは、その山の夜の仕事の中にしかない。雪を整える品質と朝の開放時刻を守れるか。SNOW MAKING編集部は、そこを導入判断の中心に据えたい。

資料・出典:株式会社マーケットリサーチセンターアットプレス掲載プレスリリース(2026年5月3日)、PRINOTH公式発表、PistenBully公式仕様。市場予測はリリースに記載された値で、編集部による原調査・実機検証ではない。車両仕様はメーカー公表値。編集・構成:SNOW MAKING編集部。

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SNOW MAKING編集部は、スキー場経営、雪づくり、索道・設備、人材、地域観光など、日本のスキー産業を支える現場の挑戦と技術を取材・編集しています。利用者と産業の双方に役立つ、正確で読みやすい情報発信を大切にしています。

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