「楽しかった」で終わらせない子どものスキーデビュー――星野リゾート「雪ッズ」に見る体験設計

「雪ッズ」レッスン風景 業界ニュース
画像提供:星野リゾート/PR TIMES 「雪ッズ」レッスン風景

スキーを初めて履く子どもに、最初の一日をどう渡すか。上達を急げば怖さが先に立ち、遊びだけで終われば「滑れるようになった」という手応えが残りにくい。星野リゾートが2026-27シーズンに3施設で展開するスキーレッスン「雪ッズ」は、この二つを一緒に考えた取り組みだ。同社によると、昨シーズンは約4,200人がスキーデビューした。

注目したいのは人数だけではない。保護者の期待を調べ、教える動作を絞り、練習場所とスタッフの伝え方まで組み立てている。初めて雪山に来た家族の体験を、スキー場はどこまで設計できるのか。発表内容から、業界にとってのヒントを読み解く。

出発点は、保護者が求める「上達」

星野リゾートは、子どもが冬の体験を楽しむことに加え、レッスンを選ぶ保護者の期待に目を向けた。2023年12月から2024年3月に、雪ッズ70を体験した子どもの保護者100人を会場で調査したところ、レッスンに期待することの約4割が「スキーの上達」だったという。

会場調査:「スキーレッスンに期待する事」
参加者の保護者を対象とした会場調査(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)

これは参加した家庭の回答であり、すべてのスキー客の意向を示す数字ではない。それでも現場への問いは明快だ。子どもが笑顔で帰ることと、親が成長を感じること。その両方が次にまた滑りたいと思える体験につながるのではないか。

斜面に出る前に、体で覚える四つの動き

レッスンのメソッドは、日本体育大学の竹腰誠教授と共同開発された。スキー未経験の子どもを対象にした検証を踏まえ、上達に必要な動きを「上下」「左右」「重心の位置」「スピードへの耐性」の四つに整理。まず平地で遊びやポーズとして体験し、それから斜面で使う。子どもが思うように体を動かしにくい場面を想定した順序だ。

上下の動き
上下の動き(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)
左右の動き
左右の動き(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)
重心を保つポーズ
重心を保つポーズ(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)
スピードへの耐性
スピードへの耐性(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)

ここで大切なのは、専門用語を幼い子にそのまま渡さないことだろう。動作を小さな遊びに変え、できたことを確かめてから次へ進む。リリースでは上達を促す仕組みとして説明されているが、他の指導法との比較による効果の数値は示されていない。実践の価値は、子どもが無理なく斜面に向かうための教え方と順番を具体化した点にある。

教え方を支えるスタッフ、記録、多言語対応

担当スタッフは、日本体育大学からスポーツ科学に基づくコーチング理論を学ぶ。今季は子どもの滑りを撮影し、本人が見返せる動画活用も始める。自分の動きを見ることは、指導の補助になるとともに旅の記録にもなるという。

楽しみながらレッスンする子ども
遊びを取り入れたレッスンの様子(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)

音声・テキスト翻訳ツールによる多言語対応も新たな要素だ。発表上は音声13言語、テキスト30言語に対応。ただし動画と多言語レッスンの対象は施設やコースで異なる。翻訳の導入だけで指導が完成するわけではないが、言葉の壁で初回体験から取り残される子どもを減らすための一歩といえる。

「初めて」を守る場所を用意する

リゾナーレ八ヶ岳とトマムには雪ッズ専用の練習エリアがある。一般の滑走者を気にせず練習できる場所を分けることは、子どもの安心だけでなく、指導を同じ条件で繰り返すうえでも意味がある。トマムのデビューパークにはスノーエスカレーターを備え、登り返しに費やす時間を減らして滑走機会を確保する。リゾナーレ八ヶ岳では、要予約でレベル1の館内レッスンを無料体験できる。

リゾナーレ八ヶ岳:雪ッズスノーパーク
リゾナーレ八ヶ岳の雪ッズスノーパーク(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)
星野リゾート トマム:デビューパーク
トマムのデビューパーク(画像提供:星野リゾート/PR TIMES)

ネコマ マウンテンは専用エリアではなく初心者エリアで実施予定。施設ごとの設備と提供方法を同一視せず、現地の条件を確認したい。

3施設での実施概要

施設 予定期間 料金・対象など
リゾナーレ八ヶ岳 2026年12月14日~2027年3月19日 6,300円~/回。3~12歳の宿泊者。板・ブーツ・ウェアを含む。専用エリアのレベル1は無料、要予約。
星野リゾート トマム 2026年12月1日~2027年4月5日 6,800円~/回。3~12歳。用具は持参または別途レンタル。
星野リゾート ネコマ マウンテン 2026年12月12日~2027年4月11日 5,400円~/回。3~12歳。板・ストック・ブーツを含む。レッスン後も使う場合は別途3,000円。

期間は発表時点の予定で、天候や施設の案内により変わる場合がある。多言語対応や動画の対象コース、予約条件も施設ごとに異なるため、申し込み前に各施設の公式案内を確認してほしい。

業界が持ち帰れるのは「最初の一日」の設計図

専用エリアや翻訳ツールをそのまま導入することだけが答えではない。保護者が何を期待するかを聞き、初心者に必要な動作を整理し、怖さを減らす場所をつくり、教える人が同じ考え方を共有する。雪ッズの発表からは、設備・接客・指導をばらばらに扱わない姿勢が見える。

参加人数の約4,200人は入り口の広さを示す一方、翌年も滑りに来たかまでは示さない。スキー人口を育てる取り組みとして評価するには、初回の満足や技能だけでなく、家族が次の雪山へ足を運んだかを追う視点も必要だ。最初の「滑れた」が、次の冬の「また行きたい」になるか。そこに、この事例を見続ける意味がある。

資料:星野リゾート「星野リゾート式スキーレッスン『雪ッズ』開催」(PR TIMES、2026年9月29日配信)。人数・調査結果・料金・実施内容は同社発表に基づく。画像提供:星野リゾート/PR TIMES。業界への示唆はSNOW MAKING編集部の考察です。

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SNOW MAKING編集部は、スキー場経営、雪づくり、索道・設備、人材、地域観光など、日本のスキー産業を支える現場の挑戦と技術を取材・編集しています。利用者と産業の双方に役立つ、正確で読みやすい情報発信を大切にしています。

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