滑り終えた1時間に、3万円の価値をつくる――Mt.T「アプレスキーゴンドラ」の事業設計

ネオンと照明を備えた貸切ゴンドラ内で乾杯する参加者 業界ニュース
画像提供:星野リゾート/PR TIMES

最後の一本を滑り終えたあと、来場者はどこへ向かうでしょうか。駐車場か、温泉か、宿か。スキー場経営の側から見ると、その分かれ道には、まだ企画できる時間があります。

Mt.T(マウントティー)by 星野リゾートが発表した「アプレスキーゴンドラ」は、その時間を1日1組、1台3万円の貸切体験として提案する取り組みです。2027年1〜2月に、飲食と音楽を楽しむゴンドラ運行を予定しています。

SNOW MAKING編集部が注目するのは、空間の華やかさだけではありません。普段は移動に使う設備に、仲間と過ごす場所としての価値を加えている点です。スキー場経営者に向け、発表内容を押さえたうえで、価格・地域連携・現場運営の観点から事業設計を読み解きます。

編集部の着眼点

「滑走後の時間」と「その山にしかない空間」を組み合わせて、来場者がもう一つ買いたくなる体験をつくれるか。

以下の経営上の考察・試算は編集部によるものです。実施前の企画であり、収益や集客効果の実績が発表された事例ではありません。

Mt.T「アプレスキーゴンドラ」は、どんな商品か

テーブルと椅子を設えたゴンドラ車内でくつろぐ参加者
照明とテーブルを備えた車内。移動するゴンドラを、滞在する空間として設える。
画像提供:星野リゾート/PR TIMES

アプレスキーは、スキーやスノーボードを滑った後の楽しみを指す言葉。今回の企画は、標高1,300mの雪景色と、貸切の車内空間を組み合わせます。主な条件は次のとおりです。

項目 発表された内容
実施施設 Mt.T by 星野リゾート(群馬県みなかみ町・谷川岳)
期間 2027年1月1日〜2月28日
時間 15:00〜16:00/2往復・約60分
販売単位・定員 1日1組限定/1台あたり最大6名
料金・内容 1台30,000円(税込)。貸切乗車、地元クラフトビールなどのドリンク、フード盛り合わせを含む
予約 公式サイトで3日前18時まで。当日空きがある場合は受付可能

出典:星野リゾートの2026年10月5日付プレスリリース。開催日程は2027年です。

車内にはネオン、照明、テーブルや椅子を設え、Bluetoothスピーカーも用意。地元の「OCTONE Brewing」のビールとともに、仲間だけの時間を楽しむ構成です。

移動設備に「滞在」の価値を重ねる

雪景色が見える貸切ゴンドラ内で飲食を楽しむ参加者
雪景色も体験の一部。装飾に加え、窓の外にある山の風景を商品に取り込む。
画像提供:星野リゾート/PR TIMES

通常のゴンドラ券では、利用者は山の上へ行くために料金を払います。貸切企画では、同じ乗車時間でも「誰と、何をしながら過ごせるか」が購入理由になる。編集部はここに、既存設備の用途を広げる発想を見ます。

しかも、料理や照明だけなら街でも用意できますが、雪景色の中を進む車窓は、その場所ならではのものです。地域の施設が体験商品をつくるとき、自分たちには日常でも、利用者には特別に見える空間を見つけることが出発点になります。

一方で、既存設備を使うことと、追加コストが小さいことは同義ではありません。装飾・備品の設置、乗降時の対応、飲食物の準備、清掃、運行時間の調整などを含めて評価する必要があります。発表では投資額や運営原価は示されていないため、この企画をそのまま「低コストの高収益策」と判断することはできません。

自場で考えるなら、まず「何を増設するか」より、「来場者が立ち止まって楽しめる場所はどこか」を探したいところ。眺望のよいレストランの一角、夕方のテラス、窓際の予約席などにも、似た問いを立てられます。ゴンドラを持たない施設でも、発想の入口は共有できます。

1台3万円をどう読むか。席数より「一組の満足」を売る

料金は一人単位ではなく、一台単位です。6人なら単純な人数割りで一人5,000円、4人なら7,500円、2人なら15,000円。これは料金設定ではなく、編集部による割り算で、人数が少なくても一台の料金が下がるという意味ではありません。

貸切ゴンドラのテーブルを囲んで乾杯する様子
仲間だけで囲むテーブル。貸切という販売単位が、体験の内容と結びつく。
画像提供:星野リゾート/PR TIMES
窓の外の雪景色と会話を楽しむ貸切ゴンドラの様子
会話や音楽を楽しむ時間。参加人数によって一人当たりの負担は変わる。
画像提供:星野リゾート/PR TIMES

この価格設計を自場に置き換える際は、客単価だけでなく、「誰が一組をまとめて予約するか」を考える必要があります。友人グループ、家族、記念日の二人。人数と目的が変われば、負担感も、求めるサービスも変わるからです。

また、1日1組という枠は、希少性と販売量の上限を同時につくります。リリースの料金を使って予約成立件数だけを変えた、仮の売上試算を置くと次のようになります。

仮定する成立件数 税込販売額の単純合計 試算の前提
20組 60万円 3万円×20組
40組 120万円 3万円×40組
59組 177万円 期間中の59日すべてに1組成立すると仮定

上記は編集部の仮計算で、予約予測・売上実績・利益ではありません。全日運行を仮定した上限を含み、運休・キャンセル・販売休止を考慮していません。飲食原価、人件費、運行費、装飾費などを控除する前の金額です。

事業判断には、成立件数だけでは足りません。自場で試すなら、準備から片付けまで何人・何時間を要するか、通常業務と重なるか、何件売れれば追加費用を回収できるかまで積み上げる。稼働率だけを追うと、忙しいのに利益が残らない企画になりかねません。

さらに、予約者がもともと場内で食事をする予定だったなら、販売額のすべてが新たな消費とは言えません。既存メニューからの移行と、追加購入を分けて見ることが、効果検証のポイントになります。

地ビールと食事を、山に来た理由につなげる

みなかみ町のOCTONE Brewingのクラフトビール
みなかみ町のOCTONE Brewingのクラフトビール。
画像提供:星野リゾート/PR TIMES
ソーセージやフライドチキンのフード盛り合わせ
ソーセージやフライドチキンの盛り合わせ。
画像提供:星野リゾート/PR TIMES

地元の飲み物を組み込むことは、仕入れ先の名前を載せる以上の意味を持ち得ます。来場者が味わうものに地域の背景があれば、山の景色と一緒に記憶される可能性がある。編集部は、アフタースキーを地域との接点にする設計としても注目します。

ただし、地元の商品を使っただけで地域経済への効果が確定するわけではありません。自場で連携するなら、仕入れ数量・発注期限・キャンセル時の扱い、紹介方法、売店での追加購入まで、双方が無理なく続けられる条件を決めておきたいところです。

飲食、眺望、過ごす相手を一つの予約にまとめると、利用者が個別に手配する手間を減らせます。その分、提供側には、食事の準備と体験開始の時刻を合わせる仕事が生まれる。パッケージ商品の価値は、華やかな見た目に加え、その段取りを利用者に感じさせず整えることにもあります。

自場で企画するなら、販売ページより先に現場の一日を描く

今回の発表から、他のスキー場でも同じ形で実施できるとまでは言えません。設備や通常運行、利用者層が異なるためです。導入を検討する際は、次のように販売の条件と現場の条件を並べて考えると、企画を具体化しやすくなります。

設計する項目 自場で詰める問い
対象客・時間帯 誰が滑り終えたあとに参加するか。帰りの交通や宿の夕食と両立するか
空間・設備 通常利用と併存できるか。備品の固定・荷重・動線などを設備担当者とどう確認するか
人員・清掃 受付、案内、飲食の準備、片付けを誰が担当するか。片付け終了までの時間を確保できるか
飲食・帰路 飲食提供の管理、飲まない人の選択肢、飲酒後の帰り方をどう案内するか
予約・運休 仕入れの締切、実施判断、変更・返金の案内をどうそろえるか
効果検証 追加費用を差し引いた収支、追加消費、満足度、現場負担をどう記録するか

これはMt.Tの未公表の運用を説明する表ではなく、編集部が挙げる検討項目です。特に設備の使い方を変える企画では、演出と運行の確認を別々に進めず、企画の初期から現場担当者と合わせることが重要になります。

最初の試行は、売上だけで評価しないほうが次につながります。なぜ予約したか、何が印象に残ったか、帰る時刻が変わったか、準備に想定以上の手間がかかったか。利用者とスタッフの両方から記録を取り、価格や提供内容を調整する材料にしたいところです。

「帰る前にもう一つ」を、その山らしい商品にできるか

雪に覆われた谷川岳の山並みと滑走者
谷川岳の雪景色。企画を支えるのは、その場所でしか味わえない風景でもある。
画像提供:星野リゾート/PR TIMES

スキー場の追加商品は、来場者にもう一度財布を開いてもらう提案です。その理由が、利用者に伝わる体験として組み立てられているか。Mt.Tの企画は、貸切、景色、飲食、仲間との時間を一つにする点で、考える材料になります。

編集部としては、「ゴンドラでパーティーをする」という形だけを追うより、来場者の一日の終わりに目を向けたい。滑走の余韻をどう残し、地域の楽しみにどうつなぎ、現場が無理なく提供できる商品にどうまとめるか。その問いは、規模や設備の異なるスキー場にも通じます。

企画の収支や利用者の反応は、実施後の検証を待つ必要があります。まずは今回の発表を、自場にある空間と、滑り終えたあとの時間を見直すきっかけにしてはいかがでしょうか。

Mt.T公式サイト


出典・編集について
この記事は、星野リゾートが2026年10月5日に発表したMt.T「アプレスキーゴンドラ」のプレスリリース(PR TIMES)をもとに、SNOW MAKING編集部がスキー場経営者向けに整理・考察したものです。開催概要は発表情報、事業上の評価・検討項目・試算は編集部の見解です。現地取材や体験レビュー、実施後の収益分析ではありません。

画像:星野リゾートの同プレスリリース掲載画像(PR TIMES)。アイキャッチを含む全8点。
執筆:SNOW MAKING編集部

掲載した期間・料金・予約条件は発表時点の情報です。最新の提供内容は施設の公式案内をご確認ください。

SNOW MAKING編集部

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EDITORIAL TEAM

SNOW MAKING編集部

SNOW MAKING編集部は、スキー場経営、雪づくり、索道・設備、人材、地域観光など、日本のスキー産業を支える現場の挑戦と技術を取材・編集しています。利用者と産業の双方に役立つ、正確で読みやすい情報発信を大切にしています。

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